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雛鳥は孵化し星鴉天に羽ばたくー「花譜不可解」に想うー

 令和元年8月1日、バーチャルシンガー花譜の1stワンマンライブ「不可解」が開催され、大盛況の内に幕を閉じました。本稿はいち観測者である私が感じた「何か」を、感動冷めやらぬうちに書き留めておきたいというだけの、論考とはとてもいえない備忘録程度の拙文になります。

はじめに

 まず、花譜公式運営チームの熱い想いを読んでください。

 …流石です。私の言いたかったこと、伝えたかったこと、すべて書いてあります。私の書くこと無くなっちゃいました。

 というわけにもいかないので私も負けじと想いを綴ります。

「想い」の共鳴

 「不可解」は、そのはじまりからまさに奇跡と呼べるものでした。このライブ開催の為のクラウドファンディングは開始83秒で目標金額に到達、最終的に40,493,000円を集めました。ひとえに花譜ちゃんの才能と、彼女の才能を最高の形で昇華しようとする運営の熱い想い、それ支援するファン=共犯者の想いがぴたりと重なり合ったが故の爆発的な共鳴現象でした。私は連日上がり続ける金額にファン=観測者の熱量とひとつの才能を持った存在にかかる期待のとてつもない大きさを知りました。

 「みんなで作る!花譜ファーストワンマンライブ」がこのCFのプロジェクト名でしたが、その名の通りこれは花譜ちゃんに関わるすべての人々が一緒に作り上げていく共同制作の作品なのだと感じました。

「奇跡」の総合芸術

 ライブそのものの感想に移ります。私はライブ当日は自宅で「不可解」を観測しました。チケット獲得競争に負けに負け、カラオケLVも落選、映画館のLV会場も隣県にすらない地方民でしたので、ひとりPCの前で「その時」を待ちました。

 起こされた奇跡の顛末は、皆さんの観測した通りです。Youtubeライブは最大同時接続者2万人越え、Twitterでは夕方から日付が変わるまで #花譜不可解 はトレンドに残り続けました。

 ライブを見終えて感じたのは、今回私たちが観測したもの、それは紛れもなく「花譜」という存在を主題とした芸術作品だ、という事でした。ツイッターで続々と報告されていた通り、今回のライブには数多くの新進気鋭のクリエイター、アーティストが関わっており、各人の持てる才能が「花譜」という一人の少女の為にいかんなく発揮され、LIQUIDROOMという箱の中にひとつの総合芸術作品が作り上げられていました。奏でられるサウンド、背景、映像演出、そのすべてが花譜ちゃんという存在のために練り上げられ作りこまれており、公式の言葉を借りれば、まさに彼女の才能を「拡張」する舞台装置となっていました。

 ひとりの少女の歌声とバンドサウンドと映像演出とが溶け合い、共鳴し、そして観測される。「花譜」というひとつの作品がその場所にはありました。

セットリストから見える物語性

 ライブにおけるセットリスト、つまり曲順の構成というのは大変重要なものです。この一連の音楽が一貫性を持った「ライブ」という作品となるのですから、多くのアーティストが大変にこだわる部分でしょう。「不可解」でもそれは同じでした。

「今まで」の再観測

 『糸』、『忘れてしまえ』、『雛鳥』、『心臓と絡繰』ーこれは、今まで私たちが観測してきた花譜ちゃんです。聞きなれた、安心して聴けるいつもの花譜ちゃん。そこに新曲『エリカ』、『未確認少女進行形』が加わり私たちを楽しませました。『エリカ』は優しく美しく、『未確認少女進行形』は可愛さの暴力でした。

カバー曲から見える「花譜」の可能性

 『うつくしいひと』、『五月雨』ー新カバー曲と既カバー曲。他アーティスト曲のカバーは私たちにと様々な曲と花譜ちゃんの歌声の意外な相性の良さを気づかせてくれます。どんな曲を歌っても「花譜の歌」にしてしまう彼女の才能にはいつも驚かされます。

 そして、『死神』。これは大変強烈に印象に残りました。背筋がゾクリとするような歌声、ここからライブの空気はガラリと変わってゆき、曲調は不穏さを帯びました。

祭壇ー魔女のテーマ性

『祭壇』、『魔女』ーこの2曲は二つでひとつの作品です。『祭壇』のバックグラウンドで『魔女』を予兆させてからの『魔女』への移行は痺れました。『祭壇』ー『魔女』。この一連の流れはとりわけ印象深く、ダークで神秘的な、ひとつの神話のようなイメージを感じました。一方で、バーチャルに生きる存在達への力強いメッセージも感じられました。

フィナーレ(?)

 新曲『quiz』はCFのリターンとして一部観測者には先行公開されていたものでしたが、サウンドとアレンジの違いで別の曲のような新鮮な印象に聞こえました。『夜が降りやむ前に』はリミックス版、新曲『夜行バスにて』を歌い終えると、花譜ちゃんによるバンドメンバー紹介。思えば、リアルバンドが中央に配置されているバーチャルシンガーのライブは珍しい。そのおかげで、花譜ちゃんとバンドメンバーが同じ空間に存在するリアリティが生み出されていました。そして最後の曲として『過去を喰らう』が歌われ、画面が暗転しました。

 もう終わるのか、と思った方もいらっしゃるでしょう。しかし私を含め、多くの観測者が、決してこれで終わりではないことを内心確信していた事でしょう。

『御伽噺』ーわたし未来からきたんだよ

 「アンコール」の声の止まない中、突如始まった不可解な『御伽話』。「朗読」という表現方法は花譜ちゃんの声の良さをとっても引き出しますね。ドヴォルザークの『新世界より』第二楽章をBGMに、唐突に「未来から来た」と語る少女。言葉によって紡ぎだされる独特の世界観に圧倒され、どんどんその中に引き込まれました。果たして彼女の語ることはどこまでが物語だったのでしょうか。「キミって語彙力全然ないんだね」に私含め一部観測者はニヤリとしたことでしょう。CFリターンの動画で聞き覚えのあるフレーズが次々と飛び出しました。「大っ嫌い」の言葉には心がギュッとなりましたが、後に「やっぱ嫌いになれないじゃん」とデレてくれたので良かったです。夏服の花譜ちゃんの初披露でもありました。冬服姿は「まぢあっちーし」な感じだったので涼しげになってよかった。

 『神様』、『命に嫌われている』はどちらもゆったりとした曲調で、ライブが終わりに近づいていることを感じさせました。『命に嫌われている』の絞り出すような「生きろ…」の歌い方が大変エモーショナルでした。

KAF/FUKA/KAI-花譜・孵化・解

そして「約束」の新衣装。特殊歌唱用形態「星鴉」との事。これはまさしく雛鳥が巣立った瞬間でした。「らぷらす」モチーフの衣装を身にまとった、「今まで」とは違う、新しい花譜。アイドル衣装のような、戦闘服のような姿。深海を感じさせるような、あるいは宇宙を感じさせるような姿。制服姿とは対照的に「バーチャル」世界の歌姫であることを強く感じさせました。

 新衣装で歌われた新曲『不可解』、『そして花になる』の2曲。「今まで」の花譜ちゃんの歩みが走馬灯のように蘇り、「これから」の花譜ちゃんの可能性を思うと感情が限界になりました。

 孵化した雛鳥は巣立ち、鴉は星の瞬く天空へと、宇宙へと舞い上がっていった。そんな物語を感じさせるライブでした。

きょうからあしたのせかいをかえるよ

 ライブ直前、花譜ちゃんはこのように呟きました。明日の世界を変える。何て大きなことを言うのだろうと、その時は思いましたが、これは紛れもない事実となりました。「不可解」以前と以後では、彼女の住む世界は、そして私たちの認識は、大きく書き換えられました

 日本中で、あるいはネットを通して世界中で、その歌声を観測された彼女は、もはや昨日までとは違う世界の中にいます。このライブで、彼女のことを知らなかった多くの人々が彼女のことを認識しました。「観測」されること。これがこのライブの大きな目標であったのであれば、これ以上の成功はなかったのではないでしょうか。この大きな舞台での成功体験は、彼女にとって計り知れない財産になったことでしょう。

 私たち一人一人にとっても、バーチャル界隈にとっても、「不可解」は大きなパラダイムシフトといえます。多くのVtuberが、あるいはVtuberファンが、このライブを観測しました。もはや知らなかった以前には戻れません。今後はこの「不可解」がバーチャル界隈のアート表現における一つの基準点、メルクマールとなりうるでしょう。後に続こうとする界隈にとって、大きな刺激となればよいなと思います。

おわりに

たったひとりの少女の、ひとつの才能。合間のトークで花譜ちゃん自身が語っていましたが、「バーチャルYoutuber」界隈の流行という大きな流れがなければ、彼女の才能は、少なくとも今のような形では我々のもとに届けられることは決してなかった。Vtuber的存在でありながらもいわゆるVtuberの大多数とは少しずれている、異質な存在。そんな彼女がVtuberシーンの中にいること、これ自体がひとつの大きな奇跡です。彼女を見つけてくれて、私たちの目の前に現れてくれて、歌を歌ってくれて、本当にありがとう。

 彼女の才能に、引き起こされる奇跡の物語に、いまでは数多くの人々が惹きつけられ、支援をしています。花譜運営チームの、利益やビジネスを脇においた、ひとりの才能に対する愛と尊敬。私たち観測者にはそれが大変に好ましく映り、それが結果的に彼女にとって金銭だけでない大きな利益をもたらします。私はこの一連の光景にもとても感動を覚え、大変清々しい気分になります。こうしたことは、誰でも真似できることではありませんし、誰にでもうまくいくモデルでもありません。

どうか、この奇跡的な、花譜ちゃん、運営、観測者を巡る大きな愛の循環が、この尊い関係性が、これからも続いていきますように。彼女の才能が伸び伸びと花開いてゆきますように。

 これから彼女が、運営チームが、あるいは関わるアーティストの方々が、「花譜」という物語のプロローグの終わりのその先をどのような形で私たちに見せてくれるのか、今後が楽しみでなりません。


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