【詩】月暈

自虐を赦してもらう材料にして、僕は今日も誰かに愛してほしいと思う。夜風に吹かれがら澄まし顔をして、清潔なふりをして、思案をしているふりをして、けれどもただただ愛してほしくて、そして誰のことも愛したくない。そのことを正当化するんだ、叢雲に隠す月みたいに。なにもかも先に定義してしまえ、すべてを赦してもらうために。だって、誰かを好きになるのは、いつだって、誰かが僕のことを好きになったときだけで、僕の恋は店に売られている苗みたいに受動的なもの。そういう罪を先に告白するからすべてを赦せよ。口達者なひとほど、多くを赦されている世界で、出鱈目をいくらでも喋ってやるから、ただ赦せばいい。「赦してほしい人なんてきみには、ひとりもいないだろう?」、ああ、うるさいよ、罪すら霞のように薄く、僕は、ただ無性に芥川が読みたい、激情的に、或る阿呆の一生、なんでも、滑稽さがなければ作品にならない、ただ、いい作品を創りたい、それだけが性欲みたいに本能的だった。何も思いつかないけれど、ただ創りたいんだ。題名なんてどうでもいいから。カーテンで閉じた部屋に差し込む月明かりがあって、だから月暈とでもつけておこうか。うん、丁度眩暈がする。月暈は眩暈に似ている。字面が。それくらいの因果関係でいい。人が生まれて、その赤子に名前をつけるくらい意味のないことだ。赤子はそこで詭弁という概念を知る。こじつけを愛情とするための便宜をはかる。嚥下しやすいように、自分のなかでぼやかし、分解する。月暈も、金環日食も、たぶん滲んだ視界に映る丸型の蛍光灯と同じくらい意味のないことだ。やっぱり、なにもありがたくないから、だから、ただ僕を愛せ、単純に。

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