丸山 和弘(歯科医)が語る。骨が溶ける?骨髄炎リスクも…歯科医に聞いた、「歯周病」を悪化させてしまう人の共通点
歯周病で骨が溶けるのはなぜ? 他の部位の骨とは異なるアゴの骨
歯周病になると、多くの人が歯の周囲の骨が溶けるイメージを持っています。歯がグラグラし始め、最終的には抜けてしまうのですが、なぜアゴの骨だけが溶けるのか疑問に思われるかもしれません。
実際のところ、歯は骨に固定されていますが、歯ぐきを貫通して口の中に露出しています。他の体の骨を見ても、このように骨につながった部分が体外に露出している箇所はありません。アゴ以外の骨は常に組織に包まれて隠れているのです。
歯周病の主な原因であるプラークが歯の周囲のポケットにたまると、歯の表面に付着し歯石となります。そして、骨に接している歯石は、細菌が骨に近づく手がかりとなってしまいます。身体の防御反応は、歯石を溶かして分解する力を持っていません。
さらに、歯ぐきは数ミリ程度の厚さしかありませんので、細菌の侵入を防ぐ限界があります。防御能力を超える細菌の侵入が続くと、細菌やその毒素が内部に広がってしまいます。その結果、アゴの骨は細菌感染してしまうのです。アゴの骨は、まるで歯ぐきから侵入した細菌などから逃れるために、自らを溶かしてしまうのです。
一般的には、歯ぐきの炎症があっても、歯石を取り除くか、歯を抜くことでアゴの骨は再び健康な歯ぐきに覆われます。そして、アゴの溶解が停止し、溶けた部分が回復して安定します。
顎骨骨髄炎のリスクも…歯が抜けるだけでは済まない歯周病悪化の症状
一般的に、歯周病の最悪の状態は「自然脱落」と考えられます。つまり、歯が自然に抜けてしまうことであり、見た目的には望ましくありません。しかし、歯が抜けるということは、治療によって抜歯された場合と同様に、原因が除去され、回復が進んだ状態です。そのため、「歯周病が自然に治療完了した」とも捉えることができます。
しかし、問題は歯が抜けず、骨の溶解が進行するスピードよりも早く炎症が進行してしまう場合です。細菌の勢いが身体の防御反応を超えると、歯ぐきの炎症ではなく、本来炎症を起こしてはならない骨が炎症を引き起こします。これが「顎骨骨髄炎」と呼ばれる状態です。
歯周病が顎骨骨髄炎に進行してしまうと、歯を抜いても治癒せず、アゴの骨の炎症が継続し、歯がない状態でも骨から膿が出ることがあります。このような状態は難治性であり、完治までに数カ月以上の時間を要する場合もあります。
歯周病から骨髄炎を起こしたケースの共通点
抜きたくないと抜歯を先送りした
過去に歯周病の診察を受けた方で、抜歯を避けているケースが多いです。その理由として、ブリッジの土台になっているため、抜歯すると入れ歯に移行する必要があり、本人の希望で抜歯を延ばしていたケースがほとんどでした。また、かみ合わせが悪かったという問題もありました。
メンテナンス不足
すでにグラグラしてしまっていても、定期的メンテナンスを行っていたケースにはあまり発生しませんでした。突然、顔から腫れがわかるほどになってから来院したケースが多く見られました。
歯磨き不足
普段から歯磨きをしっかりしていないケースなどはもちろんですが、一度腫れてしまうと歯磨き時の痛みのためしっかりと磨くことができず、汚れが付着してしまうことが多いようです。炎症で磨けなくなっても消毒を行えるような洗口剤などを利用するのも大切です。
骨髄炎になるまでの流れ・一般的な経過
歯がグラグラし、歯ぐきが腫れるなどの症状が現れますが、一時的に治療を受けることで一時的な落ち着きがあります。
歯科医師から抜歯を勧められる場合もありますが、自分の歯を保ちたいという理由で抜歯を避ける場合があります。
抜歯を回避し、通院の間も痛みがある場合でも我慢し続けることがあります。
しかし、身体の抵抗力が低下したり、疲労したりすると、突然腫れが起こり、驚いて歯科医院を受診することになります。
この時点で抜歯が行われますが、長期間の慢性的な炎症により、骨が損傷しているため、抜歯後も膿が出たり痛みが残ることがあります。
さらに、大学病院などの専門機関に紹介され、投薬やアゴの骨の手術が必要となり、完治まで数カ月以上の時間を要することがあります。