チームの目標を説明して、みんな納得してくれたのに、全然動いてくれないじゃないか。
せっかくミーティングで目標が決まって、「目標達成に向けてがんばろう」と話し合ったのに、その後の行動に変化が見られないと、マネジャーとしては空しくなります。
では、どうして行動が変化しなかったのでしょう。
自分の目標、他人の目標
子どものころを思い出してみてください。
親や先生に「勉強をしなさい」と言われて、やる気が出たという経験はあるでしょうか?ほとんどの人は、渋々机に向かったと思います。
僕たちは、他人に命令されるのが好きではありません。
自分の意志で行動したい(=自分の行動は自分で決めたい)という欲求を持っています。
目標も同じ。
自分が心から達成したい目標ならば、内側からやる気が湧いてきますが、会社や上司から”おりてきた”目標は、なかなか気乗りしません。
今期の目標はアクティビティの参加人数を前年比20%アップ!とマネジャーが宣言すると、メンバーは「わかりました」とその場でメモするでしょう。
しかしその時のメンバーの心の声は「ふーん」です。
マネジャーの決めた目標は、マネジャーの目標であって、自分(たち)の目標になっていないのです。
自分の目標は、達成したい。
他人の目標は、興味がない
他人の目標も、自分事化できる
介護からは話がそれますが、アイドルのCD販売目標を例に説明します。
新人アイドルAのデビューCDの売り上げ目標を10万枚に本人とレコード会社とで決めたとします。
この目標、新人アイドルAにとっては、自分の目標です。
レコード会社の人にとって、この目標は自分の目標になり得るでしょうか。
アイドルAの担当マネージャーBにとって、CDのヒットは自分のことのようにうれしいことでしょう。
他人(アイドルA)の目標ではありますが、自分(担当マネージャー)の目標にもなり得る。つまり自分事化しやすいと言えます。
では、デビュー直前に入社したレコード会社の社員Cにとっては、どうでしょう。10万枚は会社の目標ではあり合意はするものの、自分事とは捉えられないかもしれません。
また、デビュー前から熱心に応援しているファンも、目標を自分事化する一人です。自分のCDではなく、自分の会社でもないにもかかわらず、まるで自分の目標のように達成に向けて大量買いをしたり、情報拡散に協力したりするかもしれません。
整理します。
【目標】新人アイドルAのデビューCDを10万枚販売する
新人アイドルA:自分の目標
担当マネージャーB:他人の目標(自分事化できる)
入社間もないレコード会社社員C:他人の目標(自分事化しづらい)
熱心なファン:他人の目標(自分事化できる)
自分の目標は、達成したい
自分事化した目標は、達成したい
他人の目標は、興味がない
目標の自分事化とは
担当マネージャーBは、目標設定にかかわっています。
一緒に決めた目標なので、表に立つのはアイドルAですが、この目標は「自分たちの目標」になります。
だから、自分事化ができるのです。
一方、入社したばかりの社員Cの場合、入社前にすでに目標が決まっていたので、目標設定には一切かかわっていません。
たまたま入社した会社の目標がコレだった。という状態です。
一方的に与えられた目標を自分事化するのは、なかなか難しいでしょう。
熱心なファンも、目標設定には関わっていません。
では、なぜ自分事化できたのでしょう。
ファンにとっての本当の目標は、「10万枚販売する」ことではなく、「アイドルAを勝たせる」ことなのです。
「アイドルAを勝たせる」は、ファンが自分で決めて自分で設定した、”自分の目標”です。
「10万枚販売=アイドルAの勝利」なので、「アイドルAの目標=ファンの目標」ということです。
あらためて整理すると、こうなります。
【目標】新人アイドルAのデビューCDを10万枚販売する
新人アイドルA:自分の目標
担当マネージャーB:自分たちの目標
入社間もないレコード会社社員C:他人の目標
熱心なファン:(アイドルAの勝利が)自分の目標
自分事化の鍵
目標を自分事化するためのポイントは以下の2パターンです。
①目標設定に関わる
②他人の成功が自分の成功と心から思える
介護事業所において、メンバーが事業所の目標を自分事化して、主体的に取り組むようになるには、①目標設定からかかわるアプローチが適切です。
チームの目標を最終決定・最終承認するのは、チームのトップであるマネジャーやリーダーですが、目標を設定する過程にメンバーを巻き込むことは、目標を自分事化するためには大変効果的です。
まれにメンバーがリーダーに心酔しているために、②が成立するケースがあります。この場合、リーダーへの依存心が強すぎるあまりにメンバーが盲目的になり、思考停止に陥る可能性があります。仕事においてはあまり良い方法とはいえません。
チームの目標設定の進め方
みんなで目標を設定するといっても、検討材料が何もないまま、「今期の目標をみんなで決めましょう」と切り出しても話はまとまりません。
また、メンバーの言いなりの目標も良くありません。
マネジャー自身も意見を述べながら、主体的に(でも強引にならないように)議論をリードします。
具体的な手順としては、まずチームの理想像と現状を示し、議論の基準となる目標案を提示します。
そのうえで、メンバーから意見を引き出しつつ、実現可能性があり、挑戦的なラインに目標を導いていきます。
メンバーとともに話し合いながら適切な目標設定へと導くには、ファシリテーションのスキルが求められます。スキルを身につけるには理論の学びだけでなく、実践と振り返りの繰り返しによる経験学習が必要です。それ以外に有効な習得方法はありません。
失敗を恐れず何度も繰り返し、身につけていってほしいと思います。
目標設定の段階からメンバーを巻き込み、メンバーがチームの目標を「自分たちで決めた目標」と実感することにより、メンバーは主体性を発揮して目標達成へ向けた行動をするようになるでしょう。
自分の違う意見が出たらどうしよう、何も意見が出なかったらどうしようと、不安になる気持ちはわかります。
でもメンバーを信じ、勇気をもって、目標設定にメンバーを参加させるアプローチを試してみてください。応援しています。
めでたしめでたし
立崎直樹