
マネジャー体験ワーク:地域と隔離されたデイサービスの介護リーダー
私鉄の駅からバスで15分。終点のひとつ前「幸福苑前」の目の前に立つ5階建ての建物が私の勤務先、幸福苑だ。
広大な敷地内には、特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービスが併設されている。畑の真ん中に建つ施設のまわりには、民家や商店はほとんどなく、施設を訪れるのは、デイサービスのお客さま、面会の家族、そして職員だけである。
ここ数年、国や行政が推進している地域包括ケアの影響か、福祉施設と地域住民や団体などが交流しているというニュースを、しばしば見聞きする。
施設長やデイサービスの管理者たちも、法人全体会議では「これからは地域包括ケアだ」と話していた。
デイサービスで介護リーダーをしている山崎は、休憩室においてあった雑誌の表紙にふと目を止めた。「高齢者施設でヤギを飼育。地域の子どもたちとふれあい」という記事だった。
山崎は、休憩中だった相談員の高岡に、「うちもヤギとか飼えないかな。そうしたら地域交流ができると思うんだけど」と声をかけた。
高岡は呆れたように言った「ただでさえ忙しいんだから、地域交流なんてしている暇ないでしょ。それに、うちみたいな田舎にわざわざ来る人なんていないよ。それより、来週のレクはどうする?いつものボーリングでいいか。みんな盛り上がるし」
「そうだね」山崎はそう答えて、雑誌をもとの棚に戻した。
その日の夜、専門学校の授業で「理想の介護施設」というテーマを与えられた時のことを思い出していた。たしか2年生の11月頃だったから、今から4年前だ。
クラスメイトたちが「地域に開かれた施設にしたい」とか「利用者が社会の中で役割を感じられる場をつくりたい」と発表するのを聞き、山崎はノートに自分で書いた「笑顔あふれる介護施設」という言葉を丸で囲んだ。その丸から矢印を伸ばして、「いろんな動物を飼ってお年寄りと子どもがふれあう」と書き加えたのだった。
この気持ちを忘れたくないと思ったので、ベッドから起き上がり、手帳の今日のページを開いて、一言だけ書きつけた。
「幸福苑で地域交流は本当に無理なのか?」
【ワーク】地域交流を実現するために、山崎には何ができるでしょう?
いいなと思ったら応援しよう!
