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(サンプル)標準行動マニュアル「転倒・転落事故発生時の対応」

マニュアルと教科書

マニュアルの目的は、使う人を正しい行動へ導き、期待する成果を得ることです。

教科書とマニュアルは目的が違います。
教科書とは正しい知識や理論を学ぶための本です。基礎を習得することは、ただしい行動をするための第一歩です。ただし、教科書には「具体的に何をしたらよいのか」記述されていないことが多いため、教科書を読むだけでは、「頭ではわかっていても動けない」というジレンマが発生します。
世の中には、教科書のように正しいことは書いてあるけど、具体的に何をしたらよいのかわからないマニュアル=「教科書マニュアル」が多数存在します。それらは、読むだけでおなか一杯になるか、読んでいるだけで頭が痛くなって途中で投げ出すかのどちらかです。
マニュアルに求められるのは、完璧な知識の提供ではなく、正しい行動に導くことです。ですから、マニュアルは考え方だけだなく、行動を動詞で書くことが重要です。

今回は、私たちが提唱する「標準行動マニュアル」のサンプルを特別に公開します。
テーマは介護施設における転倒・転落事故の対処について。初めて介護施設で働く人(マニュアルを使ってこれから仕事を覚える人)に合わせて作成しました。

転倒・転落事故対処マニュアルとは、
<なに>介助中の転倒・転落、あるいは入居者が転倒・転落しているのを発見した際の対処です。
<なぜ>過失の有無にかかわらず、施設には対処義務があります。義務を怠ると賠償責任が発生します。適切な判断と対処によって、事故の損害を最小限で食い止めるよう努めます。
<いつ>事故発生(発見)時
<だれ>全職員

STEP1 床に転んでいたり、座り込んでいるのを発見したら、すぐに駆けつけ「どうされましたか?」「どこか痛みますか?」と声をかけます

早期発見、早期対処により事故による損害を最小限に抑えることができます。無資格者であっても、発見した人がまずは駆けつけ声をかけます。

〇「どうされましたか?」「どこか痛みますか?」
△「大丈夫ですか?」
大丈夫ですか?と問いかけると、たいていの場合、大丈夫ですと返答します。日常的にしている人でない限り、床に寝転んでいたり、座り込んでいる状態は、異常事態が発生したサインです。
✕ 無言
専門知識がなく、けがの状況までは判断できなくても、声をかけることによって意識の有無は確認できます。意識や呼吸がない場合には、緊急対応が必要になります。

また、急に起き上がらせず、そのままの姿勢を保ちます。
骨折している場合には、動かすと骨がずれる可能性があります。また、頭部を打っている場合には、急な意識消失のリスクもあるためです。

STEP2 看護師を呼んで、受傷状況を確認します

①意識の有無、呼吸の有無
②出血(出血箇所、出血量)、痛み(部位や強さ)、吐き気やめまい、しびれ、寒気
③バイタルサイン(血圧・脈拍・体温・酸素飽和度)
④身体がどこまで動かせるか(日常生活動作との比較)

〇しりもちであっても、上記の①~④は必ず確認し記録する
✕本人が「大丈夫」というので、「気を付けてくださいね」と声をかけ、事故としては取り扱わない。

受傷状況は医療職(看護師・医師)による確認が望ましいですが、不在時には介護職が上記項目を確認し、電話等で医療職へ報告し指示を仰ぎます。

事故が発生したことと現在の状況を責任者に報告します。

起き上がれそうであれば、転倒してもすぐに支えられる位置で介助しながら、ゆっくりと起き上がります。

STEP3 「受診」か「経過観察」か判断します

以下の場合には、本人が元気そうであっても、かならず受診します。
①頭部打撲(疑い含む)
頭部は急変する可能性があり、処置が遅れると命に係わるため、本人が「大丈夫だから、受診の必要はない」と言っても、必ず即受診します。
②骨折の可能性
少しの動きでも激しい痛みがでる、体の一部がいつものように動かない場合には、骨折している可能性があるため、受診して検査します。
③虐待の疑い
傷の形状や部位などから虐待が疑われる場合には、ケガ自体は軽くても、受診させなかったために生じる誤解を避けるため、即受診します。

また以下の場合には、医学的には緊急性がないと判断しても、家族の感情に配慮し受診することを検討します。①顔面の傷 ②出血の多いけが ③痛みの訴えが激しい。

なお、受診の判断は医療職にすべて委ねず、多職種で総合的に判断します。絶対的な正解はなく、本人や家族の価値観によっても判断が変わります。また、医療職よりも日ごろから身近で観察している介護職の方が小さな異変に気づくケースも少なくありません。

STEP3-1 経過観察をする場合、最初の2時間は、30分おきにバイタル測定をします

本人が起きている場合には、意識、呼吸、血圧、脈拍、体温、酸素飽和度を測定し記録します。寝ている場合には、睡眠を妨げないよう表情と呼吸の様子を観察と記録をし、様子がおかしければバイタル測定をします。
その後も発生から6~12時間程度は1時間おきに様子を確認して記録します。
以下の場合は経過観察を中止し、受診します。
・バイタル値の急激な変化
・顔色や唇の色の変化
・痛みの出現
・嘔吐などの体調不良
・しびれや呂律がまわらないなどの異常

STEP4 事故が発生したことを家族へ連絡します

STEP3で「即受診」となったら、すぐに家族に連絡し、受診の了承を得ます。
・転倒事故が発生した時間と場所
・現在の本人の状態
・受診が必要な理由
※事故発生時の詳細な状況や原因等については、受診後に詳しく説明する旨を伝えます。

「経過観察」とした場合も、受診の可能性がある場合には、このタイミングで連絡をしておきます。
その場合、事故の状況と現在の本人の様子および看護師等による医療的な見解を整理してから連絡します。経過観察は”施設の見解”であり、「受診させない」ということではありません。状況を伝えたうえで、ご家族が受診判断をされるかどうか尋ねます。
連絡内容
・事故発生〔発見〕時の状況(時間、場所、発生〔発見〕時の本人の様子・状況、本人からのヒアリング内容)
・発生から現在までの対処状況
・現在の本人の様子
・経過観察と判断した見解

緊急性がなく、急変等による受診の可能性もないと判断した場合は、先にSTEP4の原因分析と再発防止策の検討をしてから、家族へ連絡します。

STEP5 事故原因の分析と再発防止策を検討します

関係した職員と責任者で、事故原因を分析し再発防止策を検討します。居室内で単独で転倒した際には、居室に設置したセンサー等の記録映像も有効です。
※事故原因の分析と再発防止策の検討方法の詳細については別のマニュアルで定めます。

STEP6 家族に事故の状況を説明します

事故の発生から6時間以内(夜間であれば12時間以内)に連絡します。
※転倒が続く場合などは、あらかじめどういう場合に連絡をするか、個別に家族等と取り決めをしておきます。

介助中の事故で、過失がある、または過失を問われる可能性がある場合には、責任者から連絡します。

・事故発生時(発見時)の状況
 いつ、どこで、だれが、どのようになったか
・発生後の対応
 発生からの時間、だれが、どこで、何をしたか
・現在のご本人の様子
 バイタルだけではなく、本人の話している内容なども伝える
・事故原因と再発防止策
 ※ただし転倒した様子を誰も見ていない場合は推定であることを伝えます
・過失の有無。
 過失が明確な場合には謝罪します。ただし、過失割合の詳細や過失の法的判断はできないため、今後しっかりと調査を行う旨を伝えます。

伝え方のポイントは「結論が先」
〇「今日の午前10時頃、お部屋で転倒しているところを介護職員が発見しました。看護師が確認したところ、普段と様子にお変わりはなく、大きなおケガはないようでしたので経過観察をしています。(結論)
10時ごろに介護職員が入浴にお誘いするために訪問すると、ベッドの側面に背中を付けて、床の上に足を延ばして座っている状態でした。ご本人は”トイレに行こうと思ったら滑りおちて、立てなくなっちゃった”とお話ししていました。看護師を呼んでバイタル測定をしたところ・・・・・(詳細)
✕「今日の午前10時ごろ、介護職員が入浴にお誘いするために居室を訪問したところ、ベッドの側面に背中を付けて、床の上に足を延ばして転倒しているところを発見しました。すぐに駆けつけ、お話を伺うと”トイレに行こうと思ったら滑り落ちて、立てなくなっちゃった”と仰っていました。意識や呼吸状態には以上なく、看護師を呼んでバイタル測定をしたところ、血圧が136/94、体温が36.5℃でした。職員が抱えてベッドに移動して、全身を確認しましたが出血はなく、手や足を動かしても、とくに痛むところもありませんでした。ご本人も病院へは行く必要ないと話しており・・・(時系列で話すと、結論が分からず、ご家族の不安はなかなか消えない)


いかがでしたでしょうか。
介護施設で働いたことのない人にも、具体的な各STEPのタイトルを読むだけで、なんとなく何をすべきか行動のイメージを持っていただけたのではないでしょうか。
ぜひこのサンプルを参考に、「標準行動マニュアル」を作成してみてください。

めでたしめでたし

こんなお悩みがあれば、ご相談に乗ります。
・マニュアルを作ってるけど、活用されない
・マニュアルの書き方が分からない
・みんなに見てもらうにはどうしたらいいのだろう

立崎直樹

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立崎直樹@めでたし〃
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