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呪文と私とストリップ。

ずっと行きたいと思ってたけど、たいしてよく知りもしない自分が行っていいのか。ちょっと自信がなくて、でも気になる。そういう場所だった。ストリップという場所は。

知ったのはどういうきっかけだったろう?Netflixのビートたけしの半生をドラマ化した浅草キッドを観たときだろうか。柳楽優弥が好きなのでチェックけれど、あのドラマはストリップを男の目線で描かいていた。嫌だった。成功した男と成功しなかった女の対比。男の欲望に晒される、可哀想な夢敗れた女の子たち。

でも、果たしてそうなのだろうか?
見方が変わったのは、小説家の小野美由紀のnoteがきっかけだ。読んでからすぐ、行きたい!となった。けれど、本当に行っていいのか? とグルグル考えて、よく分からない迷いが生まれて、その思いは据え置きになってしまっていた。

とあるコンテンツが埼玉に劇場があるというではないか。そしてzineで特集するらしい。売り切れてないか心配で担当ブースが交代になると勇んで買いに行く。主催の人に来週末までの演目が面白いこと、日曜日に出かけるということを教えてもらえた。行くか? 行かないか?? めちゃくちゃ悩んだ。買った冊子を読めば読むほど自分が行っていいのかよく分からない。性質上、具体的に書けないこともあるし、素人だと汲み取れない色んなことがここには書かれているに違いなかった。


そもそもどうして行きたいのか。
自分がどうしようないくらいに保守的な環境で育ってきたのが苦しくて苦しくてたまらないのだ。いつからそう作られてきたのか分からないくらいに世間知らずな自分が嫌になる。性的なことは一切教えられなかったのに、子どものことを聞いてくる親とか反吐か出る。気持ち悪いなと思う。

内面化した体への嫌悪感とかが綯い交ぜになって、一時期VIO脱毛までしていた。剛毛であることが悪いことのように刷り込まれていて、本当に嫌で嫌でしょうがなかった。けれど脱毛によって、綺麗な女性たちが真剣にVIOの綺麗な剃り方について伝授してくれて、真剣さとそのコミカルさに救われもしたのだ。Iを剃る時は片足をバスタブに足を乗せて…滑らないようにね!と笑顔で言ってくれた人は、今どこで仕事しているんだろう。久しぶりに施術にいって、そこで全身脱毛はクリアして永久に切り替わったと思ったら、数日後破産してしまった。

noteみたいな、zineみたいな体験が得られなくてもいい。行きたいっていう気持ちは確かに本物だ。文学フリマでとあるポッドキャストファンの人に勧められて、noteをテーマにしたzineを買った。その人もポッドキャストファンで、リアルな女性の日常エッセイかな…と思って読み始めたらズッコケた。スゴすぎる。やりたいこと全部やってる!! 保守的で、行動力のない私にとって、こんな世界が有り得るのか…? こんな日常が送れるの?? となる。

でも多分、本当にやりたければ私も多分勝手にやり出すのだ。誰も読まないnoteを書きつづけ、メンバーシップもやり出し、同人誌をだして、ポッドキャストもやる。ベクトルは違ったけれど、多分欲しければ勝手にやるというタイプなのかもしれない。全く知らない分野への参入にストレスがあるだけで。


行こう!行くしかない!女性が必ずしもいるとは限らないなかで、いる可能性は他の日よりも高いのだ。そして、おすすめの演者だという。SNSを見て、行き方と入り方をリサーチする。情報が少ない。整理券があるくらいだ、会場はいっぱいになってしまうのでは?でも、そんな朝早くから頑張って並ぶ勇気がない。新札が使えないことを知って慌てる。家族に立て替えてもらう約束をする。男と女とでは価格が違った。

同じ埼玉とはいえ行ったことのない街。前日から当日までうんうんうんうん言いながら悩んだ。ここで行かなかったらいつ行くの? そうなのだ。今しかないのだ。開演ギリギリに間に合う電車にのり、劇場に向かう。2組の男女がスっと建物に入っていった。行くしかない!入るのだ!動悸が凄かった。歩行者の人と目があったら入れなかったかもしれない。

券売機で旧札を差し出して、チケットをもらう。女性のチケットには、男性客からなにか迷惑行為をされた場合に、お店の人に助けを呼べる暗号が書いてあった。それを見て、一気に緊張がほぐれた気がした。魔法の呪文。もしくは暗号。ちゃんと女性の居場所がある。ものすごく安心した。「ポイントカード作りますか?」と言われて、即答した。緊張から興奮に変わっていた。

ギリギリにきて、あれやこれやと悩む前に会場の電気が消された。荷物置き場があったけれど、結局置けずに持ったまま立ち見。荷物が小さくてよかった。すぐに開演。緊張していたから、はじめどんな服を着ていたのか思い出せない。真っ暗な中、あかりの点った鬼灯を持って、妖艶に踊る女性の姿に、目を奪われる。綺麗。衣がどんどん繊細に、最後にはビーズの連なった衣装だけになって、シャランと揺れていた。

そして、乱れのない踊りで、その体を魅せるのだ。目と目があう。笑いかけてくれる。どうすればいいのか分からなくて、思わず手を胸の前で組んでしまう。お祈りしてるみたいなポーズになっていたと気づく。パッと照明がつくと、慣れた様子で会場内が動き出す。よく分からなくてじっと気配を消して立ち尽くす。先程の踊り子さんが出てきて、写真撮影が始まる。長い列。どういうシステムなのか不明だったけど、チケットをもぎっていたので、どこかで買うらしい。会場の外は外で並んでいる様子で、ちょっと買いにいく勇気はなかった。

パッと突然また衣を脱いで、写真撮影。おしゃべりしたりポーズのリクエストしたりと和気あいあいだ。そ、そんなポーズもいいんですか!?という感じで、自由自在である。ピンと足を伸ばしてポーズをとっても震えない体。薄い皮下脂肪の下にみえる筋肉の隆起。妖艶で、きれいで、かっこよくて、かわいい。どうしたらいいのか分からなくて、ずっと写真撮影を見ていた。


かわいい踊り子さんもいれば、カッコイイ踊り子さんがいた。踊り場への登場を焦らすように、テンポとリズムは正確に、こちらを試すような踊り。音楽の盛り上がって、一気に花道をかけて盆で舞い踊る。衣を纏わぬ体で、バッチリと目と目があう。鍛えられた体の踊りが、美しかった。私を見ろという迫力。そんな風に私もなりたい。


主催の人とも少しお話できた。色々と教えてもらって、でもまだまだ理解できることも多くなくて。そう、会場では色んなコミュニティがありそうだった。顔なじみなのか友人なのか。ほそぼそと喋ったり、誰かが会場に来るとあっと!手を挙げたり。振りを覚えて一体感がある感じに、羨ましさも感じた。

「ここにこれたら、あとはどこでも大丈夫」そういってもらえて、次はどこに行こうかと考える。行くか行かないかばかりに気を取られて、演目が1日に何回あるのかもよく分かってなくて。眉毛サロンの時間が迫る。会場では誰もスマートフォンは触らない。ルールが行き届いていた。

次の演目で、どんな踊りを見られるのか。ギリギリまで粘って、途中で会場を後にする。ドキドキして入ったのが嘘のように、外に出る。まじまじと会場の外に貼ってあるポスターを見る。何倍、何百倍もの迫力が会場にはある。

チケットをポケットにそのまま入れていて、ホーム内で自然に見返していて少し慌てて、定期入れにしまう。性コンテンツの広告がSNSでチラチラ覗いても、ゾンビからフォローされたり、メッセージが飛んできても、なんだこんなのと流れるようにブロック。目と目を合わせて、私に向かって投げかけられたあの視線と体に叶うものなんてもうないのだ。


おわり。

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葉々(yoyo)
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