第3言語の学び方:日本語→英語→スペイン語 → ズールー語 →・・・
わたしの言語プロフィール:
第1言語:日本語(母語:熟語は苦手)
第2言語:英語(ほぼほぼ or そこそこ or まだまだ)
第3言語:スペイン語(スタート地点)
第4言語:ズールー語(Duolingo登録)
来年1月くらいからスタートしたいと思っているプロジェクト(Cuentos del universo/宇宙民話)のオリジナル言語がスペイン語なので、スペイン語の勉強を最近始めました。
え、順番が逆だろ、って? 確かにそうです、普通は。
でも葉っぱの坑夫は普通ではないことだらけなので、順番も逆になってしまいました。
スペイン語のできない人が、スペイン語のお話の翻訳プロジェクトを企画しています。いきさつはこちらに書いたので、興味のある方は読んでいただければ。
スペイン語の基礎知識は0ではありません。2、3年独習したことがある、パラグアイ人のスペイン語(+グアラニー語)俳句集の翻訳をしたことがある。メキシコ旅行でローカルバスに乗ったとき、地元のメキシコ人おじさんと2時間くらいバスの中でずっと話をしていた経験がある(ホントか?)。
どれもマユツバものの経験かもしれませんが、まあ、0ではないという。
もともとスペイン語は音が好きでした。昔のスペインの名作映画で『ミツバチのささやき』という印象的な作品があって、その映画の中心は(わたしの印象では)女性の少し低めの声によるナレーションでした。セリフの少ない映画で、映像と音楽とナレーションによって構成されていた、と思います。
そういう印象(好印象)も、語学の学習には役立つことがあります。
1月からのお話プロジェクトでは、スペイン語からの翻訳はAIによる英語への機械翻訳を基本にしています。その英訳された文を、わたしが日本語にしています。疑問があれば、スペイン語の原文もときどき参照します。
AIは日本語にも変換できますが、二つの言語に距離があるため、不具合もあるので、それよりずっと近いスペイン語 → 英語を基本にしました。
実際にやってみて、まあまあ近い言語ですね、この二つは。特に英単語でラテン語由来のものは、そっくりです。「important(インポータント)」が「importante(インポルタンテ)」のように。よくスペイン語系の人が英語をしゃべっていると、「インポルタンテ」のような発音が混じるのは、そのせいだと思います。
ただ近いとは言っても、言語的な系列でいうと違いますし、単語もまったく違うものがあるし、名詞と形容詞の順番が逆だったり、スペイン語には女性形だの男性形だのあるし、、、、と単純ではないです。
お話プロジェクトでは、わたしの日本語訳を、メキシコ人の著者とチリ人の助っ人(スペイン語話者)の人が内容、表現が合っているかチェックします。その際、この二人は英語ができるので、わたしが日本語訳をAI翻訳を使って英語にして、それを彼女たちが読みます。
そんなもん、スペイン語 → 日本語の翻訳者がさっさと訳せばいいじゃん、と思われるでしょうが、そうでもないのです。
つい先日のこと、「señorita perruna」(英語:Miss doggy)を日本語訳するとき、「ワン子さん」としたら「cute」「kawaii」の感想コメントが二人からつきました(Google Docsの共有ファイルを使用してる)。二人は日本語も少しわかるので(アニメや日本文学とかで)。またDon Paleta = ドン・パレタという登場人物については、チリの助っ人フェル*から「ドンはスペイン語ではMr.なんだけど、名字じゃなくて名前の方につけることが多い」という説明がきました。音的に「ドン・パレタ」が面白いかな(音的になんか笑える)と思っていたのですが、別案として「パレタくん(パレタ君)」っていうのもいいかなぁと。
と、このようにいろんな話し合いが、和気あいあいと翻訳中に出てきて、そのこと自体が作品を仕上げることと同じくらい面白く貴重!
また著者は「デビュー前の新米作家」(と、自分で言っている)で、スペイン語の記述や文法に問題があることがあって、それをチリの助っ人フェル*(メディア関係勤務のジャーナリスト)が、ドキュメントに赤字を入れてきます。作家だけでなく、こちらにとっても勉強になります。
作家のアジ*は確かに新米かもしれず、文章に添削が必要だったりするのですが、イマジネーションの爆発がすごくて、次々にあっと驚く話を書いてきます。文章だけでなく、自分の書いた話に絵もつけてきて、それが弾けててまたすごい。インスタの自撮り写真もワォ、タタタタトゥー…….みたいな。
で、スペイン語の学習の話に戻ります。
スペイン語の勉強をしようかな、と言ったら、そのアジ*が、「とりあえずDuolingoでもやったら」というので、スマホで朝起きたら1番にやることにしました(5分程度ですが)。70日を超えたところです。レベルは下から2番目のところから始めました。
で、ゲーム感覚で、まあ悪くはないですが(やっていていろいろ単語とか思い出すし)、すごく受け身の勉強法だなと途中で気づきました。つまり向こうのペースで向こうのやり方でやるしかない、という。
そこで違う勉強法も探してみようと、ネットを検索してみました。今の時代、ネット環境とデバイス一つあれば、いくらでも無料で勉強できるのではないでしょうか? すごい時代です。
自分のこれまでのネット学習を振り返っても、お金を払ったことはほぼありません(単独の講演など除いて)。海外の大学(スタンフォードとかバークリーとかエディンバラとか)の3ヶ月くらいの講座もです(コーセラ)。初期の頃は、修了証明がいる場合以外は無料でした。
で、あれこれ探したというわけでもなく、最初に当たったものをとりあえずやってみています。で、それが案外よさそうで。
初心者のためのフリーレッスンなのですが、いくつかのコースがあって、その中から面白そうなものを二つ選んで試しています。オーディオファイルがあるので、それを聞きながら発音しながら学習しています。Spanish Storiesという子ども向け(大人も!)のオーディオとビデオ(アニメ)によるコースがあって、いま、わたしは「ポジート・ティト」という名のニワトリのお話を見たり聞いたりしています。主に、オーディオを聞いて、スペイン語テキストを読み、英語訳をONにして読み、自分でも声を出してスペイン語のテキストを読みます。
このスペイン語での読み(声出し)が、けっこう楽しくて、上で書いた『ミツバチのささやき』のスペイン語のナレーションが好きというのとつながっています。最初なかなかスムーズに読めない(言えない)文も、何度もやっているうちに「おや、ちょっといい感じじゃない?」になってたりします(自画自賛)。
Deja que te cuente una historia sobre un pollito.
デハ・ケ・テ・クエンテ・ウナ・イストリア・ソブレ・ウン・ポジト
にわとりさんのお話を聞いてください。
これ、自分で言える(できれば暗唱できる)ようになると、オーディオやビデオの音声も聞き取れるようになることを発見。
声に出す、と、聞く、はつながっているみたいです。そういえば英語でも、発音できない単語は、スペルもわからないし、聞き取りもできない、ということがあります。発音記号をちゃんと読んで口に出して言っていれば、その単語を覚えるんでしょうね。
語学学習の秘密の一つを知った気分です。(いまごろか?!)
「ポジート・ティト」のお話が終わりまで行き着くのに、どれくらいかかるのか。次のお話にはいつ進めるのか。でもべつに急いでいるわけではないので。多分、「ポジート・ティト」を全編うまく暗唱できるようになったら、次のお話は、もっと速く進めるのでは?
その間に単語も覚え、表現法も身につけ、Rの巻き舌も少しはできるようになるかも?
これが今のところのわたしのスペイン語の学習法です。全然ほかを当たってないので、もっといいものがあるかもしれませんが、でもとりあえず、これをやっています。
あと昔買った『プログレッシブ スペイン語辞典』(鼓 直編集代表、小学館)を書棚から引っ張り出したら(新品みたいにきれい!ナゼ?)、これが読むだけでもけっこう面白くてタメになる。
たとえばDuolingoでその日出てきた単語「beber」(drink)があったとして、スペイン語の辞書を引いて見てみると、「水を飲む」(beber agua)はいいけれど、コーヒーとか薬とかスープを飲む場合は「tomar」を使うと出てきます。またbeberには飲むだけじゃなく、情報を得る、話に聞き入るという意味もあるそうで、また名詞形の飲み物は「bebida」、それが次の項目にあったりします。
そういえば、このtomarですが、ちょうど訳していたお話の中に出てきました。
Captain Cookie took them out of the refrigerator, drank milk and put sugar on a plate. (DeepL翻訳)
スペイン語の辞書で調べると、tomaronは「点過去(完了過去)(ellos) tomaron」とあって、「取り出す」と「飲む」両方の意味が出ています。
コンマの前にある sacó(sacar)は「取り出す」の意味なので tomaronを「取り出す」にすると、取り出す取り出すになってしまいます。ただ、冷蔵庫から材料を取り出して(特製クッキーを作っている)、取り出したミルクを飲むか? とも思います。まあ、キャプテン・クッキーは子犬だから、ミルクを飲んじゃうこともあるかもしれませんが。
で、この tomaronの意味を著者に訊いているところです。
*ChatGPTに訊いてみたら、このコンテクストではtomaronは「ミルクを用意する」「ミルクを使う」と受け取るのがいいそうです。「ミルクを飲む」とは受け取れないと。「冷蔵庫から材料を取り出し、ミルクを用意して、砂糖を皿に出す」 そういうことのようです。
と、今のところ、こんな風です。まあ、この1、2年がスペイン語の勉強どきと思っています。スペイン語のお話プロジェクトをやっている間は、少なくとも続きそうです。メキシコとチリに1人ずつ先生がいることだし、スペイン語で書かれたお話に、翻訳を通じて日々ふれるわけですから。
語学の学習、いや語学にかぎらないかもしれませんが、どうやって学ぶかが案外大事かな、と。自分で学び方の方法論を見つけること、それこそが学びの出発点じゃないんだろうか、、、、と。
たとえばピアノの練習でも、楽譜に書いてある運指法(指づかい、どの指で一つ一つの音を弾くか)で普通弾くわけですけど、それに従わなきゃいけないわけではなく。一般的な楽譜には、一般的な弾きやすい運指が書いてあるだけで。自分で弾きやすい、あるいは自分の出したい音に沿った運指を探すことも学習の一つだったりします、本当は。小さな能動性といいますか。多くの学習者は、楽譜と先生の指導に盲目的に従いがちかも。
「何か学んだ人から学ぶ」だけでなく、「自ら直接対象と向き合い、学ぶ」態度も大事。
最後に語学のユニークな学び方を長年してきた、ノンフィクション作家の高野秀行さんの『語学の天才まで1億光年』を紹介したいと思います。学生時代以降、25を超える外国語を習い、それを現地で使ってきた!という人です。
高野さんの著書は『恋するソマリア』『移民の宴 日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活』など読んだことがあり、面白い人だとは思っていました。が、語学を学ぶことにここまで熱心な人とは気づいていませんでした。
高野さんの語学習得でユニークな点はたくさんあります。印象に残ったことの一つに、ちゃんとした先生じゃない人に習ったことで、生きた言葉をものにできた、という話があります。
高野さんはコンゴに謎の怪獣探しに行くために、あるとき公用語になっているフランス語を学ぼうとします(後で現地のリンガラ語も学ぶ)。その先生というのが暗黒舞踏のダンサーとして日本に住んでいるフランス人の女性。そもそも教師ではないので教える気があまりなく、延々おしゃべりばかりしている。そこで高野さんは、そのよく聞き取れないおしゃべりのフランス語を毎回、テープに録音することにします(デジタル以前の1990年代半ば)。
そしてその録音テープを、家に帰ってから全部書き取ります(すごい!)。それを持って次のレッスンに出向き、聞き取れなかった箇所、わからない言葉などをテープを回しながら、先生に確認するとか。それがびっくりするほど効果的だったそうです。で、その先生の話し方というのが、おしゃべりだから普通のフランス人の日常語で、教則本とはかなり違う。それが後々コンゴでとても役立ったというのです。(教科書みたいな話し方は誰もしてない)
英語やフランス語を学ぶというと、たいてい正しい文法とか、正しい発音とか、正しい綴りとか、「正しい」かどうかが中心になることが多いけれど、コンゴ周辺で話されているリンガラ語を学んだことで、その価値観がガラッと変わったとも書いています。実践的な、現地での会話では、正しさよりも「通じること」そして「ウケる」ことが大事、と高野さんは言います。言葉はコミュニケーションなのだから。正しい文法や発音に気をとられておずおずと言葉少なでいるより、現地の人の話し方を真似してそれっぽくノリよく話すほうが、現地のみんなから喜ばれ、会話がうまく進むとか。
これね、「現地の人の話し方を真似してそれっぽく」というの、リンガラ語だと抵抗ないけれど、ロサンゼルスで「現地のアメリカ人っぽく真似てそれっぽく話す」というと、もしかすると嫌味な日本人になりはしないか? とちょっと心配。なぜだろう。白人コンプレックスみたいだから? 日本人は日本人らしく? たとえ英語をうまく話せる場合も、日本人としての所作は忘れずに。みたいな。
どうかなー。高野さん、ヨーロッパとかアメリカではどうしてたんだろう。
ていうか、そういう国にあまり行ってないか。
一億光年の本の中で、言語の体系を説明した図があってそれがヘェという感じなので、引用させてもらいます。
コンゴ共和国の人の言葉の階層図 by 高野秀行
おおまかな語族の系譜図 by 高野秀行