めぐり逢い
―今から約千二百年前―
私たちは初めて出会った。
あなたは上流階級の貴族で、出会った時も雅な金糸の狩衣が誇らしげに日の光に煌めいていた。あなたは自信に溢れた若さの残る顔で馬に跨っていた。
あの日は秋晴れの空が青く綺麗な日で、私はたまたま屋敷の庭に出て紅葉を見ていた。そこで鷹狩をしていたあなたに見つかった。
あなたは私を見つけてすぐものにしようとした。私は抵抗したが、抗えなかった。
あなたには、既に多くの側室がいた。私は下流貴族の娘であり、あなたの正室になれる身分ではなかった。
あなたは誰も私を見つけないように竹林の奥に屋敷を立て、そこに私を隠した。
私はじいとふたり、誰も来ない屋敷であなたを待ち続けた。
あなたを思い和歌を書き、あなたを思い琴を弾き、あなたを思い月を見た。
あの時代の私は、あなたに会えるか会えないかで生きていた。
―今から約四百年前―
それから約八百年後、私は吉原の遊女だった。八つで里から売りに出され、すぐに遊女の才能を発揮した。十と三つには吉原で一番の花魁となった。
毎日多くの客が私を買った。大商人や役人は当然のこと、百姓から年貢を搾り取って私腹を肥やした庄屋や、時には僧侶まで来た。
毎日毎日求められ、毎日毎日彼らの欲望のはけ口になり、私の心は干からびて何も感じなくなっていた。
そしてその日が来た。
私は遊郭の二階の窓から気だるく道行く人を眺めていて、あなたを見つけた。
今度は私から声を掛けた。花魁が窓から声をかけると目立つので、禿を遣わせた。
部屋に入ったあなたは、すぐに私に気が付いた。
わたしは何年も忘れていたほほ笑みを浮かべあなたを見た。あなたもゆっくりと笑みを返した。
こうして、私たちはまた出会った。
しかしあなたは小さな問屋の息子で、私を身請けするには財が足りなかった。
私は気持ちのない客の相手をしながら、毎日あなたを待った。
あなたが来る日は、世界が色に満ちていた。
あなたが来ることだけを願って、毎日を過ごしていた、
ただし花魁は花のようなもの。盛りを過ぎると目も向けられなくなる。
私の花魁としての命も、もう数年に迫っていた。
私たちの関係も時間の問題だった。
あなたには呉服商からの縁談がきて、私には多くの有力者から身請けの話が来ていた。
駆け落ちも考えたが、お互いに生きていてほしかった。
私たちは生涯違えぬ愛を誓い、あなたは呉服屋の娘と所帯を持ち、私は江戸の豪商の身請けを受けた。
生きていると、また会える。あなたがどこかで生きていることだけを心の支えに私は生きた。
―現代―
それから時は過ぎ、平成の終わり頃、私は東京で看護師として働いていた。
毎日決まった時間に出勤し、仕事をこなし、仕事が終われば夜の街に遊びに出かけていた。
若さにかまけて多くの男性と遊び、貢がせていた。
誰もが階級に関係なく自由に生きられる時代で、私は自分の思い通りの毎日を送っていた。でも、どこかいつも心の底には、慣れ親しんだ虚しさがあった。
ある日、新宿で多業種パーティが開かれた。当時私は、遊び相手を見つけるために月に一回二回はパーティに参加していた。そこで男と仲良くなり、数回遊んで別れを告げるというという遊びを繰り返していた。
そこで私たちは、また出会った。
あなたは医療界で事業を行う身として参加をしていた。あなたの周りにはあなたと話がしたい人が集まり、ひっきりなしに声をかけていた。
私の周りには、いつものように体目当ての男が群がっていた。
その群れの中から、私たちはお互いを見つけた。
目が合った時、もう一度出会ってしまったことが分かった。
そして、この流れは止められないと悟った。
あなたには既に妻と子どもがいた。今回も私たちは許されない恋だった。
妻子持ちには本気にならない。それは遊ぶ上での鉄則だった。
でもあなたと再会した時、その鉄則はいとも簡単に崩れ去った。
なぜ、今回も惹かれ合うことが分かりながら、出会うまでそのことを忘れてしまうのだろう。
今回も私たちは、道行かぬ恋をした。
そして何度でもまた出逢うのだろう。お互いが結ばれるまでずっと………
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