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選歌30首 令和6年12月号

この夏の猛暑の続く彼岸かな供へる花にヒマハリ交じる

成田ヱツ子


六階の病窓に見る「鈴鹿花火」死の淵に居て生きの実感

橋本俊明


この春に生まれし友との再会にハイウェーの風満身に受く

井手彩朕子


くり返し迫る旋律覚め際のうつつの中のラジオのボレロ

臼井良夫


黒猫よおまへを弟子にしないのは実は魔法を知らないわたし

高田香澄


とんとんと飛び石渡りここに来て間隔ひろし老いは臆する

高田好


あの頃はみな半分こカタカタ鳴る扇風機の前に座って

髙間照子


坂道をずりっずりっ精霊船「踏んばれ・止めろ」掛け声のとぶ

田中昭子


隣から寝息きこえる日常があるだけでいい永遠なれと

藤田直樹


海のなき街に想へり「海が見えた。海が見える」芙美子の車窓

山北悦子


夢でしかまみえぬ人の増えゆけば病の床に眠るも愛し

伊雪佑


一点の遮るものの無き夜を中秋の月と我との交信

小笠原朝子


雨音が聞こえてきます静々と、あなたを追って眠れそうです

鎌田国寿


送り火の煙の上る天に座す星の一つが確か瞬く

永田賢之助


別れ際強い握手が身に沁みる只それだけで心足らえり

松下睦子


車椅子免許があらば何級か 五年有余も助けられゐて

毛呂幸


月輪熊の皮にどつかと坐りゐる本家の主わが父の甥

高貝次郎


詠めぬならそれも又よし一服の抹茶をゆっくり点てよう秋日

田中春代

ATMの口より出たる新札の渋沢くんに初めましてと

谷脇恵子


一人して道を糺すと乱れ世の街頭に立つ新米ポリス

木下順造


カックンと曲がる台風摩訶不思議もう常識は通じない世に

高橋美香子


いつ知らずあなたを想ふ これは恋水張田の月煌々として

西原寿美子


頂きしシャインマスカット娘にも届けてやりたし里の秋なり

菊池啓子


幸せのブループリント描きたり母の笑顔の傍らに父

建部智美


つとめ場へきみを送りて飯田橋をのこのそびらに雨のふりそむ

石谷流花


サワサワとうなる葉音は苦しげに濁る朝日を町に吐き出す

一色春次郎


夕食のサラダに緑加えんとオクラきざめば小さき星生る

草刈あき子


さやさやと初秋の風の渡る畑芽吹ける人参青一列に

今野恵美子


さらさらと時は過ぎゆき窓下を流れる川のごとし人らも

清水素子


蟬の音のうるさいと言う人の前そうでないとは言えないでいる

玉尾サツ子





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