見出し画像

選歌 令和6年11月号

笛を琵琶を捨てて平家はほろびたりわが棄てるものどれ程のもの

高田香澄


久々の友からの誘いブランコから飛び出すように出向くと答う

高田好


濡れ縁の猫が食べるを見守りているかのような黒い蝶なり

玉尾サツ子


エジプトゆ休暇の次女のこぼすこぼす老老介護のための帰国と

橋本俊明


いつの間にか朝顔一輪咲いており 平和な朝のマゼンタの色

山口美加代


補聴器をはづして聴かむ夕は心の襞に深くかなしも

渡辺茂子


自己流の人生長く生きながら乾き過ぎたるシーツをたたむ

臼井良夫


いいんだよ泣いて笑って怒っても夏の大空高くて青い

児玉南海


もしあの日広島にさえ行かなければもしももしもと原爆忌来る(原爆で死し伯父)

高橋美香子


縁台の夕涼みとふ楽しみも今は遠くに令和の夏よ

西原寿美子


傷口をいたわるように緑濃く工事跡地の樹木伸びゆく

宮本照男


こっそりと最後のメールをまた見てるコロナの頃はもう消しますか

森崎理加


メヒシバの広がる株を抜きたれば真夏の畑に勝つた気がする

岩本ちずる


のび太の声優小原乃梨子の美しさ八十八で他界してゐた

高貝次郎


白玉を丸めいるがにゆっくりと言葉を選りて友と会話す

田中春代


孫達といつか遊ばんと残したるゲームの類 令和は化石よ

成田ヱツ子


いち族のしづまりゐたる夜半の月ひとへふたへにまなこうるほす

西尾繁子


新聞の配達員とわれに見せ月下美人は命をたたむ

藤峰タケ子


もう一度逢ってゆっくり話したい一人や二人は浮かぶ夜なり

松下睦子


残照の庭に雀ら遊びいる「早ようお帰り暗くなるから」

佐藤愛子


一〇〇円玉入れれば響くビール缶無人市場の朝は静かに

浦山増二


友は逝き私も老いたよ玄関の段差一つを「せき」とし上る

財前順士


発熱を待つばかりなる仙北平野人影見ざる稲が答える

田口耕生


一面に張り詰む大気青く燃えクツクツクツと日本を煮る

建部智美


ひとり来てまた一人来てコンビニに児らの並べる夏の自転車

髙橋律子


バス停まで徒歩7分が9分にほとほと歩く燃える地球を

小笠原朝子


月は地を、地は陽を巡る、陽も巡る、銀河の渦の流れにまかせ

鎌田国寿


耳奥のポコンと鳴れる起き抜けの俄かに騒ぐ蟬時雨かな

木下順造


犬連れの若きカップル幾組も 少子化の意を少し解せり

国友邦子


道端にこんもりと咲く露草の俯く花にほだされている

篠原和子




短歌の会 覇王樹|公式サイト

短歌の会 覇王樹|公式X