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選歌 令和6年10月号


ひとりとて咀嚼早きはわびしいぞ夕餉はアンダンテの緩さに摂らん

高田香澄


物の値のあがる暮らしも意と構え明日買う品のいくつかを消す

田中春代


今年花三度咲かせて金柑の放てる香り梅雨明け近し

橋本俊明


耳遠くなりてかなしもテレビに爆づる今宵の花火美しかれど

渡辺茂子


ひとつばたごの散り花拾ひ遊びゐし亡き子の近々誕生日なり

井手彩朕子


泣けるだけ泣かせてあげたい母心若い詩ちゃん生きてる証(女子柔道選手)

高橋美香子


白玉をつるりつるりと食べながらウソのウワサもつるりと呑んで

髙間照子


大空をただよう如く俯瞰する世界の時は少しずれてる

藤田直樹


この店も機械がお金を呑み込んで「ありがとう」の減っていく街

三上眞知子


ジンジンが近づき大木の真下 全身に浴びよう 朝の蟬を

山口美加代


畦道に蓆を敷いて遠花火はなび見る八十年前のすこやかな母

高貝次郎


卵溶く音軽やかにスマホより聞こえて娘との会話は続く(スピーカー使用)

谷脇恵子


幼日を語る電話は九十分教え子なれど先生降参

永田賢之助


障害の娘介助す母の年我より十も上と聞きたる

成田ヱツ子


船内の講座の一駒ガザの日常ひび生きたいのです唯生きたいのです

松下睦子


竹篭にすずしき花の五種を活け「あとみよそわか」まれびとを待つ

宮本照男


エアコンをそつと点じて下さるる夜間巡視の二十二時頃

毛呂幸


母の日の度にもらひし紫陽花の株のひろがる庭のをちこち

岩本ちずる

やれやれと月が遊びにくるようなお池を誰と作りましょうか

森崎理加


東京の地下のメトロは13路うごめき乗り継ぎ蟻のごとしも

山北悦子


坊様の流るるごとき御読経にさらりと生きるひらめき得たり

建部智美


今日もまた純白の身と出会うため心つくしてもやしの髭取る

仲野京子


つぎつぎと百人一首を諳ずる吉祥天のごとき百歳

田村ふみ子


五歳児に着物を着せて宮参りパパの着物をじいじが着せる

田中章


草の上の翡翠の玉は誰か生む一粒ごとに透ける鼓動よ

福留夕音


バイロンを引きつつたたへぬ物識のきみの知らざるきみがくろかみ

石谷流花


カレンダー一枚くれば西瓜の絵昔懐かし井戸水の冷

伊関正太郎


無理むりに駆け込む客に車掌告ぐ「イキイソグノハオヤメクダサイ」

鎌田国寿


バラ園に行こうと誘う友の声我が家のバラが門辺に聞きいる

今野恵美子


都市でもなく田舎でもなきわが町に五月の空突きマンションの建つ

国友邦子





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