選歌 令和5年8月号
海底に揺らぐ光の重さから今日のあなたの機嫌を測る
森崎 理加
十一時二十分頃窓越しに寄港の飛機の通過待ちゐる
毛呂 幸
闇に光り闇に消えたる蛍火よかなしみは不意に胸をつきくる
渡辺 茂子
花よはな花は心のビタミンぞ研ぎ汁のませ朽ち花を摘む
青山 良子
てのひらに怪我して気づく亡き夫は二十年間片手洗顔
高田 香澄
わびしさを秘めて強がり言ってます お互い解る優しさごっこ
高田 好
月に近き初夏の金星コロナよりウクライナより赫き血色
橋本 俊明
孤独とは己を貫き得る場所か花もそうして風に揺れてる
三上 眞知子
「いたみのさけりくつをつくりけさのみたい」回文うたう伊丹諸白
森本 啓一
見つけたりさくら並木を見晴らせる静かな茶房 誰にも内緒
山口 美加代
眠る子の額にはりつく前髪を分けてわたしの愛する午睡
渡邊 富紀子
ササユリを一杯とりたるあの頃は自然破壊に気付かぬままに
浦山 増二
窓際の席でぬり絵をしていると、あの日の風が吹き寄せてくる
鎌田 国寿
彷徨いて家に帰れぬ夢を見る何度も何度も径間違えて
松下 睦子
手にとれる記念銀貨のうす重さ万博なんてかすめる記憶
渡辺 ちとせ
幕下の土俵にぎはす取り直し審判達の協議三度目
高貝 次郎
生きていることの充実確かめてゆっくりと飲むブラックコーヒー
田中 春代
町内の子供たち来てひいふうみい交互に抱かれ猫が戸惑う
永田 賢之助
白黒をつけてみたとて何ならんわが耳元をかすめゆく風
藤峰 タケ子
日曜の早朝ミサを待ちわびる母の祈りは生きてる証
岩本 ちずる
原爆症 押してこの世へ吾を送る父母の強さに感謝あるのみ
常川 緑
遠くとほく海は鏡のごとくして光り放てり樹木葬より
山北 悦子
たなびける八俣遠呂智の尾を追いて己もいつか天空に舞う
建部 智美
片腕に蜘蛛と牡丹を彫りしよりまこと生きたる心地こそすれ
石谷 流花
休日に洗濯物の糸屑を丁寧に取る時間に出会う
阿邉 みどり
検閲がきびしくこれでお便りは終わりにします兄の絶筆
草刈 あき子
人は皆季節を追いて生きてゆく見えざるものに流されながら
今野 恵美子
これだけの人がいたのと思うほどスーパーの道鈴成りに混む
清水 素子
豚カツのカラッと揚がり五月晴われの作れる物の美味しき
高橋 美香子
G7まるで何かのフェスタかと核の脅威を濁して閉じる
髙間 照子
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