選歌 令和6年4月号 1 短歌の会 覇王樹|短歌会 2024年3月26日 14:41 被きたる雪の帽子にさざんかは寄り合うようにくれない灯す(藤峰タケ子) コマ送りするかのように窓越しに真白き富士はぬっと現わる(宮本照男) 赤塗りの水上客船現れる橋の下より龍のごとくに(清水素子) 淋しさもとことん辿りつきたればそれが力になるとは言えど(高田好) この時は何を考えていただろう太宰治のグラビアの顔(田中春代) まちがへてアクセル踏めるさながらに饒舌とまらぬ熱燗一合(山北悦子) ママを呼ぶ四人の曾孫の声は似て男女差のなくどれもソプラノ(上村理恵子) 初もうでの帰りのカーナビ連呼せる「にげてください」津波の怖さ(浦山増二) 仰ぎみるコールドムーンは暖かな黄の色をせり大つごもりに(岩本ちずる) 揺さぶられ思わず掴む椅子も揺れ時わきまえず襲い来るもの(小笠原朝子) 何となく過ぎゆく日々の彩りは金魚草咲くかすみ草咲く(松下睦子) 「誰に手を振つてゐるの」と問はれゐる額田王の和歌ふと憶ふ(毛呂幸) パソコンは軽き音のみ流しつつ息子たちまち我を追い抜く(渡辺ちとせ) 十年の空白ありたるブーニンに障害前の演奏もどる(井手彩朕子) 突起せし地層に港は消え失せり漁師は声なく立ち尽くしゐる(斎藤叡子) 若きらは戦闘開始と武装して雪よせをするブル唸らせて(佐藤愛子) 俺よりは十五歳も若い筈なのに逝きてしまへり演歌の女王(高貝次郎) 病院死そのまま火葬納骨と近所のよしみも死語となりたり(成田ヱツ子) 母達がまだ暮らしゐる夢の中帰らんとしてしきりに歩く(臼井良夫) 植ゑきたる御衣黄桜いつの日かそよぎてあれなわが魂としも(渡辺茂子) 僅かばかりの義援の用紙吸ひ込めるATMの哀しき迅さ(橋本俊明) 湯浴みする父の背中を流したり冬の大樹に茂る吾の手(建部智美) どうしても歌を詠めない夜がありエイとばかりに布団にもぐる(上中幾代) 朝ごとに見上げる頭上軍用機オスプレイかと不安がよぎる(高野房子) 耳に良き語り口なり小夜更けてラジオで聴きいる上方落語(髙橋律子) おみくじの「大吉」空し能登地震倒壊家屋に雪降り積もる(田村ふみ子) チョコ送る夫の返事は「あぁ」とのみ贈らなければどんな気持か(阿邉みどり) 雨音のけたたましくなるひと時にわが寒菊は伏して崩れぬ(才藤榮子) 惨状はいずれも似ており能登輪島キーウにガザもモノクロ世界(高橋美香子) 能登の海かの日に見たり波の花 朝市の声 魚貝のにほひ(西原寿美子)朗読を聴いてみる 覇王樹公式サイトへ ダウンロード copy #短歌 #短歌会 #覇王樹 #覇王樹社 #短歌の会覇王樹 1