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選歌 令和6年4月号

被きたる雪の帽子にさざんかは寄り合うようにくれない灯す(藤峰タケ子) 

コマ送りするかのように窓越しに真白き富士はぬっと現わる(宮本照男) 

赤塗りの水上客船現れる橋の下より龍のごとくに(清水素子)
 
淋しさもとことん辿りつきたればそれが力になるとは言えど(高田好)
 
この時は何を考えていただろう太宰治のグラビアの顔(田中春代)
 
まちがへてアクセル踏めるさながらに饒舌とまらぬ熱燗一合(山北悦子)
 
ママを呼ぶ四人の曾孫の声は似て男女差のなくどれもソプラノ(上村理恵子)
 
初もうでの帰りのカーナビ連呼せる「にげてください」津波の怖さ(浦山増二)
 
仰ぎみるコールドムーンは暖かな黄の色をせり大つごもりに(岩本ちずる)
 
揺さぶられ思わず掴む椅子も揺れ時わきまえず襲い来るもの(小笠原朝子)
 
何となく過ぎゆく日々の彩りは金魚草咲くかすみ草咲く(松下睦子)
 
「誰に手を振つてゐるの」と問はれゐる額田王の和歌ふと憶ふ(毛呂幸)
 
 
パソコンは軽き音のみ流しつつ息子たちまち我を追い抜く(渡辺ちとせ)
 
十年の空白ありたるブーニンに障害前の演奏もどる(井手彩朕子)
 
突起せし地層に港は消え失せり漁師は声なく立ち尽くしゐる(斎藤叡子)
 
若きらは戦闘開始と武装して雪よせをするブル唸らせて(佐藤愛子)
 
俺よりは十五歳も若い筈なのに逝きてしまへり演歌の女王(高貝次郎)
 
病院死そのまま火葬納骨と近所のよしみも死語となりたり(成田ヱツ子)
 
母達がまだ暮らしゐる夢の中帰らんとしてしきりに歩く(臼井良夫)
 
植ゑきたる御衣黄桜いつの日かそよぎてあれなわが魂としも(渡辺茂子)
 
僅かばかりの義援の用紙吸ひ込めるATMの哀しき迅さ(橋本俊明)
 
湯浴みする父の背中を流したり冬の大樹に茂る吾の手(建部智美)
 
どうしても歌を詠めない夜がありエイとばかりに布団にもぐる(上中幾代)
 
朝ごとに見上げる頭上軍用機オスプレイかと不安がよぎる(高野房子) 
 
耳に良き語り口なり小夜更けてラジオで聴きいる上方落語(髙橋律子)
 
おみくじの「大吉」空し能登地震倒壊家屋に雪降り積もる(田村ふみ子)
 
チョコ送る夫の返事は「あぁ」とのみ贈らなければどんな気持か(阿邉みどり)
 
雨音のけたたましくなるひと時にわが寒菊は伏して崩れぬ(才藤榮子)
 
惨状はいずれも似ており能登輪島キーウにガザもモノクロ世界(高橋美香子)
 
能登の海かの日に見たり波の花  朝市の声  魚貝のにほひ(西原寿美子)



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