被きたる雪の帽子にさざんかは寄り合うようにくれない灯す(藤峰タケ子)
コマ送りするかのように窓越しに真白き富士はぬっと現わる(宮本照男)
赤塗りの水上客船現れる橋の下より龍のごとくに(清水素子)
淋しさもとことん辿りつきたればそれが力になるとは言えど(高田好)
この時は何を考えていただろう太宰治のグラビアの顔(田中春代)
まちがへてアクセル踏めるさながらに饒舌とまらぬ熱燗一合(山北悦子)
ママを呼ぶ四人の曾孫の声は似て男女差のなくどれもソプラノ(上村理恵子)
初もうでの帰りのカーナビ連呼せる「にげてください」津波の怖さ(浦山増二)
仰ぎみるコールドムーンは暖かな黄の色をせり大つごもりに(岩本ちずる)
揺さぶられ思わず掴む椅子も揺れ時わきまえず襲い来るもの(小笠原朝子)
何となく過ぎゆく日々の彩りは金魚草咲くかすみ草咲く(松下睦子)
「誰に手を振つてゐるの」と問はれゐる額田王の和歌ふと憶ふ(毛呂幸)
パソコンは軽き音のみ流しつつ息子たちまち我を追い抜く(渡辺ちとせ)
十年の空白ありたるブーニンに障害前の演奏もどる(井手彩朕子)
突起せし地層に港は消え失せり漁師は声なく立ち尽くしゐる(斎藤叡子)
若きらは戦闘開始と武装して雪よせをするブル唸らせて(佐藤愛子)
俺よりは十五歳も若い筈なのに逝きてしまへり演歌の女王(高貝次郎)
病院死そのまま火葬納骨と近所のよしみも死語となりたり(成田ヱツ子)
母達がまだ暮らしゐる夢の中帰らんとしてしきりに歩く(臼井良夫)
植ゑきたる御衣黄桜いつの日かそよぎてあれなわが魂としも(渡辺茂子)
僅かばかりの義援の用紙吸ひ込めるATMの哀しき迅さ(橋本俊明)
湯浴みする父の背中を流したり冬の大樹に茂る吾の手(建部智美)
どうしても歌を詠めない夜がありエイとばかりに布団にもぐる(上中幾代)
朝ごとに見上げる頭上軍用機オスプレイかと不安がよぎる(高野房子)
耳に良き語り口なり小夜更けてラジオで聴きいる上方落語(髙橋律子)
おみくじの「大吉」空し能登地震倒壊家屋に雪降り積もる(田村ふみ子)
チョコ送る夫の返事は「あぁ」とのみ贈らなければどんな気持か(阿邉みどり)
雨音のけたたましくなるひと時にわが寒菊は伏して崩れぬ(才藤榮子)
惨状はいずれも似ており能登輪島キーウにガザもモノクロ世界(高橋美香子)
能登の海かの日に見たり波の花 朝市の声 魚貝のにほひ(西原寿美子)
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