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選歌 令和6年9月号

進化などつまらぬことよ捩摺もぢずりは千年螺旋を咲きのぼるなり

高田香澄


餌撒けば真鯛群らがり飛び跳ねる故郷の光一気に集め

高橋美香子


空の青海の青にも染まらずに鴎の飛ぶを頻りに見たし

田中春代


遺りたる一人も逝きて庭畑の荒るるに任せ悪なすび咲く

橋本俊明


捨つるものなきかと見まはす部屋の中あの思ひ出も捨ててしまおう

渡辺茂子


本棚の一冊分の透き間闇埋めらるるなく週末が来る

臼井良夫


歳重ね不要の人となることを怖いと言いし人の若さよ

小笠原朝子


水たまりホップ、ステップ、ジャンプ飛べないけれど飛んだつもりで

今野恵美子


鉄橋を渡る列車の遠鳴りの湿り帯びたり水無月の朝

佐田公子


物陰を選びて歩く初夏の日に一陣の風我を追い越す

清水素子


人生でたった一年の同級生お世話になったとは恐縮千万

富安秀子


半夏生を半化粧と言ふ夫の視線言はれてそれもありかと思ふ

成田ヱツ子


雨の中ひとり泣いてるあぢさゐのその切なさに寄り添ひてみむ

西原寿美子


だだつぴろい部屋に一人で住みながら甚平を着てパソコンを打つ

高貝次郎


うぐひすのほらまた鳴いたとデイの人見送るわれを振り返り云ふ

友成節子


パソコンの書類作成苦手でもやらねばならぬ子育て支援

松下睦子


約束をなしたるごとく咲きそむる姫睡蓮の六月三日

伊関正太郎


あぢさゐの「隅田の花火」を見るにつけ遠くへ行きし人思ひ出す

井手彩朕子


膝をつき有るか無きかの雨を受く恩師の住まいは更地となりたり

鎌田国寿


叶ふならスキップをしたき思ひして紫陽花続く川べりを行く

谷脇恵子


生きている実感をもつ為だろうゲレンデ目指す 晴れるといいが

藤田直樹


今はもうつけること無き香水が琥珀色して並ぶ鏡台

髙橋律子


しめやかな紫陽花の森に迷い込み暫し浸りぬ音なき世界

田村ふみ子


エレベーター残るサボンの香り誰青葉の風に浮かぶ面影

福留夕音


林檎の柄つまみてそつと少しだけ上げれば重し津軽サンフジ

清水洋子


こんなにもバスが揺れていることも気づかないでゆれる乗客

森崎理加


たまたまにベンチの隙間につかえたり遊びごころの止まる一葉

吉田和代


母親は息子に内緒を持っていい隠し味とかほんとの歳とか

渡邊富紀子


予定日に遅れてごめんねお母さん梅雨を産湯にしてみたかったの

伊雪佑


ラストランあと何周残れるかゆっくりじっくり時を稼せがん

浦山増二





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