山茶花の白と紅葉の交差して庭しづかなりひなたのかをる(西尾 繁子)
車窓より遠く紅富士の瞬時見え「うおっ」と心の雄叫びを聞く(三上 眞知子)
いてふ並木の黄金なれる道をゆく前世わたしはインカの女王(山北 悦子)
わたくしの原点として拾ひたり産土の杜に無患子ひとつ(渡辺 茂子)
人影を透かして見ゆる冬の海剝離してゆく思ひ出ばかり(臼井 良夫)
葉を落とすごとく蔵書を手放すは遠き昔の乱読少女(高田 香澄)
三日月の鋭き光揺るるときわが影薄く剥ぎとられいる(高田 好)
ブロッコリ刻んで茹でて食しつつ今年の私の思い「凛」です(田口 耕生)
涙声になりゆく吾にさりげなく友は話題をそっとずらせり(田中 昭子)
ラジオから“ムーンリバー”が流れきて年末掃除しばし中断(南條 和子)
うなだれて雨に濡れいる白鷺がひこばえの田にぽつんと映える(藤田 直樹)
鋭角のビルの谷間の紀尾井町オープンカフェで風と味わう(宮本 照男)
そびえ立つマンション群はパタパタと折りたたまれて夕日に沈む(森崎 理加)
砂時許の砂はさらさら幾たびも過去も未来も汚れを知らぬ(伊関 正太郎)
手袋の両手をしっかり繋ぐ紐首から下げて掛けてた戦中(奥井 満由美)
霜月の浮雲抜けてまっしぐら線描すすむ機影見えぬも(永田 賢之助)
フレイルと言はれれば新種の病かと日本語で言へこれは老化と(成田 ヱツ子)
幾尾ものドンコを獲りて驚かす俗人となりて母も喜ぶ(橋本 俊明)
安静という名のもとに貪りぬ無為の時間よそろそろ起きよ(松下 睦子)
バイタルを記録してゐる左手に見とれてゐます今朝もきのふも(毛呂 幸)
亡き友の思ひ出話限り無し御子息に書く便箋七枚(井手 彩朕子)
兵隊の水筒眠る蔵静か起こすな平和の夢から起こすな(山内 可奈子)
入院の母に置き去りの父ひとりオロオロオロと賀状も書けず(建部 智美)
日だまりの特等席に犬と座し煙草くゆらす祖父のいた冬(髙橋 律子)
霊園の紹介電話断りの切っ掛けとなる大きな嚔(田村 ふみ子)
歩みつつかつて「山窩」と呼ばれいし流浪の民に思いを馳せる(鎌田 国寿)
金沢と小松におわす我が友の無事が分かるは日が落ちてから(菊池 啓子)
逆光に紅葉の彩のてらてらとわが血流に混じり来る赤(財前 順士)
強風にしらしらと波ひるがえり百羽の千鳥飛び立つごとく(清水 素子)
私ならアッと仕留めるゴキブリを「一晩格闘!」と娘は伝え来る(高橋 美香子)
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