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歌集紹介

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#短歌会

鎌田国寿歌集 『夢路を辿る』

鎌田国寿歌集 『夢路を辿る』

鎌田国寿歌集        『夢路を辿る』の世界長澤ちづ(ぷりずむ代表) 
        

高祖母の仰ぎし桜の静けさを  探し求めて夢路を辿る

歌集名となった一首。高祖母とは祖父母の祖母のこと、作者から見ると四世代遡ることになる。勿論互いに知る由もなく、されど血の繫がりは紛れもない、そんな存在の女性だ。幕末から明治の頃の女人に桜の面影を託して詠う作者は、現実を見据えて詠うよりは浪漫性豊かに事

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渡辺茂子歌集『アネモネの風』

渡辺茂子歌集『アネモネの風』

帯より
言葉が無力化している時代に《アネモネの風》一巻はいきいきとして詩の永遠性に目を向けている!
作者は、「朝日新聞」滋賀歌壇選者

海渡る蝶のいのちに立ちつくす伊良子岬の白き渚に

本能と言ふは易しもアサギマダラ超えゆく海のはたて想へば

点となり波の上より消えたれど今は祈らむ蝶の運命と

神島に集ひて越ゆとふ三千キロまさきくあれなまかなしき命

ひたひたと寄せくる波よ渡りゆく蝶のいのちに何と

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    佐田毅歌集『ほがらほがらの』

佐田毅歌集『ほがらほがらの』

直球のやさしさ栗木 京子(塔)

平成二十二年七月から二十四年十月初旬までの三〇二首を収める第四歌集。東日本大震災をはじめ国内外に深刻な出来事の多かった時期であり、また作者本来の実直で正義感の強い作風のゆえもあって、日々の思いを嘆きと祈りを込めて詠んだ歌が印象に残った。

財源のなき国民の孤独死は隣の団地の二階にありぬ

液状化するゼロ地帯 亀裂には人形一体泥にまみるる

北風がわれを遅らすとほり

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    佐田公子歌集 『天 楽』(てんがく)

佐田公子歌集 『天 楽』(てんがく)

帯文より
亡くなった夫も長男も光になった。
西空には天楽が聞こえる。

そう新型コロナウイルスで、またウクライナの戦禍で命を落とした人々も、光になって天楽を奏でている。

この世の埒外でこの世を見守っているはずだ。
きっと、きっとそうだ。 

著者自選5首
落合の桜は君との見納めぞ今日もスマホに花盛りなり

今ひとつ力の入らぬ霜月に竜首水瓶吾を立たしめよ

大けやき雄々しく立つを見上げたり わが精

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