【観劇】井上芳雄主演 ブロードウェイミュージカル「プロデューサーズ」
シアターオーブへブロードウェイミュージカル「プロデューサーズ」を観てきました。井上芳雄さんの舞台を観るのは2回目。前回観たのは2019年の井上ひさしさん作「組曲虐殺」(演出・栗山民也さん)で演じた小林多喜二の役でした。「蟹工船」など虐げられた労働者たちの過酷な現実を描いたプロレタリア作家としての小林の生き様を人間臭く愛おしく演じていた井上さんがとても素晴らしかったので今回のミュージカルもとても楽しみにしていました。
★ストーリー
今作は1968年の同名映画が2001年にブロードウェイで舞台化されトニー賞では12部門を受賞した大ヒット作品で、その後も世界各国で上演されている大変大きな作品なんですね。
物語は、これまでヒット作を生んできたものの現在は落ちぶれて破産寸前となってしまった井上さん演じるブロードウェイプロデューサーのマックスのもとに、大野さん演じる人が良いものの気の弱い会計士のレオがやってきて、帳簿を調べると舞台を失敗させた方が利益を生むと知り舞台の中身よりも金儲け優先のマックスはレオとともにそれなら最悪のシナリオと最悪のキャストで失敗作を作って儲けようと奮起。しかしその舞台の評判はふたりの思惑を外して大成功するという結果になってしまって…というものでした。
★歌詞を超える表現
作風もあるのかもしれませんが、今回は井上さんのアドリブ多め?でお茶目なシーンがたくさんありました笑。女性に求められるとちゃんとエロく、言う事をなかなか聞こうとしないレオを忙しく宥めたり、脚本家や演出家の前での大嘘つきぶりなどなどすべてチャーミング。そして舞台後半から終盤でのマックスのこれまでを一気に語り歌い踊るシーンは圧巻でした。ミュージカルでは歌うときの抑揚はもちろん、歌われる歌詞の内容で登場人物の心境や境遇が伝わると思ってしまうのですが、井上さんのそれぞれのシーンでの表情(筋)の動かし方、指先までの細かなシルエット、さらにライトアップされる一瞬の緊張感とライトから離れてゆく一瞬の安堵感の中にさえ、マックスを纏ってみせた井上さんは素晴らしかった。井上芳雄さんのこれからのステージも楽しみです。
★追及されたユーモア
また会計士レオ役の大野さん(残念ながらWキャストの吉沢さんのステージを観ることはできませんでしたが)の思いっきり振り切った演技と井上さんのアドリブに笑いをこらえなくなったところでは客席を魅了し、マックスのスポンサーの女性ホールドミー・タッチミー役を演じた春風ひとみさんの明るさも際立ち、同性カップルの演出家と助手である脚本家のロジャーを演じた吉野圭吾さん、その助手カルメンを演じた木村達成さん、お二人のお芝居もとても良かった!(特に吉野さんの舞台はまた機会があれば拝見したいです。)そして主演女優でありながら英語が話せない女優ウーラ役の木下晴香さんのザ・ブロードウェイ女優!という仕草と声もとても可愛かったですね。さらにマックスが採用した「ヒトラーの春」というハチャメチャな脚本を書いたヒトラーを心酔し啓蒙する脚本家のフランツを演じた佐藤二朗さんは…どこまでもどこまでも自由で笑、可笑しくていい意味で心配になるほど笑いました笑。
★力強く寛容に
どの物語、そしてどのミュージカルにもステージから伝えたいメッセージが必ずあります。ショービジネスの面白さと人間の面白さを描いた今回の「プロデューサーズ」はコロナ禍で厳しい状況の中、演出の福田雄一さんはじめ関係者が力を振り絞って幕をあけ、演者が演じきったということこそがエンターテイメント界のメッセージであること、そしてエンターテイメントの持つ力強さと寛容さをあらためて届けてくれたと感じました。
でもほんと、井上さんと大野さん、佐藤さん三人のシーン…面白かったですね笑。毎回違うアドリブもあったのかな?