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朝ドラ『カムカムブリバディ』考②第4週を深掘り。金太の最期から考える安子の願い
『カムカムエブリバディ』が、まあ相変わらず面白い。辛い戦争シーンが続きましたが改めてその丁寧なつくりに痺れています。初回放送時も神回と話題となった19話は、先週放送された再放送でもネットニュースになるほど注目されました。が、この回だけでなく第4週はもはや、まるっと神週といえるほど素晴らしかったです。今回はザッと振り返りつつ、そのスゴさについて改めて考えたいと思います。
第4週こそ、波瀾万丈ドラマ『カムカム』の象徴
第4週を超簡単にまとめると以下です。
・月曜(16話):稔さん(松村北斗)出征と安子(上白石萌音)の妊娠
・火曜(17話):小しずさん(西田尚美)、算太幼少期と幸せそうな橘家の回想。幸せ絶頂の小しずさん、祖母ひささん(鷲尾真知子)からの岡山空襲
・水曜(18話):終戦。心を病む金太(甲本雅裕)。空襲後の街を歩く安子の名シーン。あんこを作り始める安子。台風の中、砂糖を探しにいく金太
・木曜(19話):金太復活。10月、復興する岡山の街を背に「安子、『たちばな』を立て直すで」宣言。おはぎ(みたいなもの)を作りを始めるが子どもに盗まれるも「これを売ってけえ」と託す。からの算太の幻想、金太の死
・金曜(20話):金太が算太と会えたことを喜ぶ安子。ラジオの基礎英語講座再開。勇ちゃん(村上虹郎)生還。稔の戦死
要点をまとめただけですが、まさに激動。『カムカム』全般に言えますが、幸福と不幸の繰り返しに感情が揺さぶられますね。
第18話、ナレーション(城田優)が「金太の心と体は回復しませんでした」と語っているように、金太は心まで病んでしまっていたんですよね。それを考えると、18話の描写もまた改めてすさまじいです。
病んだ金太を描くシーン。背景ではラジオが流れ、のちに死者2473名という被害を出した、枕崎台風(1945年の台風16号)の報道が聞こえてきます。これは9月17日頃の台風のため、終戦からちょうど1カ月。岡山大空襲は6月29日ということなので、金太が病んでいる期間がいかに長びいているかを示します(ちなみにその後、金太が砂糖の缶を探すシーンも雨。これが台風の描写ということがわかります)。この時間はつまり、家族を失い父が病んでしまった、安子が健気に耐え抜いてきた時間とも重なります。時の流れと心情を表す台風の描写は圧巻でした。
そして第20話、金太が亡くなりその位牌には10月20日と刻まれていました。つまり、6月の終わりに空襲に遭い、心を病み、亡くなるまで4カ月弱ですか。金太にとっても、安子にとってもハードな時間でしたね。
このタイム感を頭に入れて見ると神回19話はさらに奥行きを感じるものになります。振り返ってみましょう。
朝ドラ史に残る好きなシーン、19話のファンタジー場面を深掘り
第19話
おはぎを盗んだ男の子とのやりとりを経て安子に語る金太。
「なんか、似とったじゃろ算太に」と金太。あの男の子が帰ってきたら算太も帰ってくると安子に語ります。
そして、ここからは、ファンタジーです。
戦争から帰還した算太に「よう帰ってきてくれたのう、算太。すまん。みな死なせてしもうた。母ちゃんも、じいちゃんも、ばあちゃんも」と語る金太。
「戦争じゃったんじゃ。しょうがねえが。父ちゃん、もうそない気を張るな。こんなんじゃけど、まだわしが生きとる。安子も生きとる。そうじゃろ」と算太。
金太は「お前がのう、いつ帰ってくるかわからんとったからのう、わし待っちょったんじゃ。ここを動かんと待っちょったんじゃ」と涙します。そして、ラジオの回想に入ります
このシーン、スゴいのは、金太が怒りそうな顔をした直後に「よう帰ってきてくれたのう算太」の名台詞が出ること。というのもこれまでは、絶縁をするほどに金太は算太にブチ切れていたわけで、また「怒る」かと、視聴者はみな構えていたはず。が、ここは金儲けをしてきた(ファンタジーだけど)ことに対しての怒りではなく、算太に「待っちょったんじゃ」という素直な感情をぶつけます。『カムカム』のというよりは、個人的には朝ドラ史上トップクラスに好きなシーンです。そのくらい甲本さん、濱田さんの二人の演技は熱く、心に迫るものがありました。そして、今までの伏線や二人の関係性の積み重ねがこのシーンに大きな感動を生んでしました。
素直に読み解くと、この場面は金太の心象風景。死に際、彼に見た幸せな家族の思い出。そう考えるのが適当でしょう。それだけでも文句なく泣けるのですが、何度も見ているうちに、僕はこんな夢想もしてしまいました。
それは、この場面は「安子」の抱いた幻想でもあったのではないか、というもの。そう読み解くこともできるのではないかと。以下、完全に妄想ですので、読みたい人だけどうぞ!
安子が思い描く金太への願いが結実した場面と思うと、違う意味で泣ける
第20話、おはぎの子から、金太の死に際を聞き「お兄ちゃんに会えたんじゃね」と、しみじみする安子のシーンがあります。それを見て思ったのですが、19話の件のシーンは、倒れた後うわ言を言って亡くなったという事実を知った、安子が思い描いたシーンだったのじゃないか。「こうあってほしい」という願望だったのではないか。もちろん算太と上手に別れられなかったことも、金太が算太を待ち続けていることも安子は知っています。そんな彼女の切なくやさしい願いが19話のあの場面を僕らに見せてくれたのではないか。
もっというと、死の直前「安子、『たちばな』を立て直すで」宣言をする金太、幼少期から憧れていたあんこ作りを教えてくれた金太は、もしかしたら安子から見た「こうあってほしい」「こうあってほしかったか」父像ではなかろうか。
20話で金太の死因が心臓の病と明かされたものの、安子は納得がいかない様子でした。そして、倒れる間際の金太があまりに元気に描かれていたのもちょっと不思議に思えてきます。前述したように4カ月も病に苦しみ、心身ともにボロボロになっているはずですよね。この時間経過も暗に示しているのが憎いというか上手! 死ぬ直前に元気を取り戻したあの金太の姿からすでに、安子の願望が生み出したものだったのではないか……。
邪推です、すいません。でもそのくらい深読みしたくなる、そして何度も味わいたくなる週でした。この僕の推論は、マジで正しかろうが正しくなかろうが、どうでもよくて。こんな考察までできてしまう、なんて素晴らしい作品なんでしょう、ということが言いたかっただけ!長々とすいません。
虚実を織り込んでるのは、後半のクライマックス、算太(濱田岳)がダンスの後に倒れる名シーン(第94話)も同じだったなあ。こちらも、たくさん語りたいことがありますので、また長々書かせてもらおうと思います。