【外堀を埋める】
朝食の配膳が終わり、食事介助(食介)を待つ。
1日ぶりの食事だ。パンではなく、お粥だった。とりあえずお腹が空いていた。
20分ぐらい経つと、脇阪が来た。
朝食の食事介助は、夜勤が担当するからある意味しょうがない。
手術後、手術室の迎えから脇阪が来てハズレなので、早くこの呪縛から逃れたい一心だった。
「何も食べてないからお腹空いたでしょう」と言いながら、お粥の中に食後に飲む薬を入れスプーンで口の中に入れてきた。拒否する余裕もなく入れたのだ。
そして、極めつけは「美味しいでしょ」と言い放ったのだ。
薬の苦さで美味いわけがない。
怒りで我を忘れそうになって「お前も食ってみろよ!」と喉まで出かかったがグッとこらえた。
30代の自分なら食ってかかっていたことだろう。
我ながら大人になったと思った。
最悪の朝食だった。
昼食の時に男性ナースが食介に入ってくれた。彼は背が高く大柄だがとても優しい人だった。名前を忘れてしまったので、出身地が石川県と言っていたので石川君と呼ぶことに。
以前、石川君と話していると脇阪の話になった。
石川君の方が若干若いがキャリアは僕の方が長いと言っていた。
あの人(脇坂)は、「人を物扱いし効率と速さを優先するんだよね。考え方が好きになれない」と言っていた。
そのことを聞いていた僕は、石川君に朝食の時の話をした。
「朝食の時に、お粥に薬入れられてちょー不味かったよ!それで美味しいだろって言われ、お前も食ってみろよ!と言いそうになったよ。」
「あ、騒ぐとめんどくさいことになるから、ここだけの話ね」と言っておいた。
他にも数人のナースに話をして外堀を埋めていった。
案の定次の食介時には、やられなくなった。
効果覿面だった。
つづく
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