【隣のベッドの困ったちゃん】
朝の8時半ぐらいに4階のリハビリうださんがひょっこり顔を出した。
「リハビリは順調ですか?どうですか?」といつもの笑顔だった。
僕は、「朝早くからどうしたんですか?」と聞くと、
「エガちゃん観てないですか?今日発売日で朝からファミリーマートに行ってきましたよ 。」
と言って紙袋から「江頭2:50監修 旨辛担々麺風味ポテトチップス」「ブリーフ団監修 黒胡椒チーズ味ポテトチップス」の2袋を見せてくれた。
「手に入ったんですか?凄いですね」と言うと「千葉のファミマに2店舗回ったけど両方に在庫ありましたよ~」と言って僕に手渡してくれた。
「悪いですよ」と言うと「いいからいいから」と言ってテレビ台の戸棚にしまってくれた。
うださんが「先生お亡くなりになりましたよ」と言った。
4階の病室の時に、後から来た隣のベッドの困った爺さんのことだ。
この爺さんは、入って来た時には手遅れのがん患者だった。
病室に入って来るや否や「コーヒー」飲みたいとナースに言った。
「先生に聞いてからね」
そこに先生が登場し「何でも飲ませてあげて、治療もできないから」と本人の目の前で言った。
ちょっと気の毒になった。
身体は、伝い歩きができるかできないか微妙なラインで、危ないから大人しくしててと言われていた。
お風呂は2週間以上入っておらず、「汚いからお風呂に入るよ。」と言われてもなかなか入らなかった。
就寝時間近くなるとナースコールを鳴らしてコーヒーを買いに行きたがる。
自分で買いに行くと駄々をこねる。
深夜にベッドの柵を引っこ抜いて車椅子に乗ろうとしたりで、うるさいのなんのたまったもんじゃなかった。
そのうちベッド周りが、センサーだらけになっていった。
ナースに怒られても、お構いなしで平気で悪さをする。
確信犯的行動に感じた。
隣の爺さんのリハビリにうださんが入った。
爺さんの話を耳にすると博学だった。
教員だったようだ。
身寄りも居ないようだった。
隣の爺さんが病室に居ないある時に、ナースが「隣うるさくてごめんね」と言った。
「きっと身寄りもいないし寂しいから迷惑かけて困ったちゃんするんだと思うよ。リハビリの時の話を聞いてると博学で、ちゃんとした爺さんだよ。優しく接すれば、もうちょっと大人しくなるんじゃないの?」と僕は言った。
それからナースの態度が優しくなったように感じた。
同時に爺さんも大人しくなっていった。
そんな爺さんだった。
つづく