2月22日
この町は工場が多い。昔かららしい。その税金のお陰で潤っていた行政は、もう十年以上も前に市町村合併の憂き目にあって、赤字になったと名高い。
嘗て貢献していたそのひとつひとつが何の工場で、何を作り、どんな人が働き、あらゆる角度から見た“生産”の、いかなる力となって来たのか、生後六ヶ月からこの町に暮らしているにも関わらず、私は何も知らない。
去年オープンしたショッピングモールのお陰で、近隣は若干華やいでいる。オープン当初こそ、付近の公園はゴミで溢れ、若者が暴れ、酷い状態だったが、それが大分落ち着いたのは、何件あったか知らない“通報”により、【不法投棄禁止!市内でも逮捕者が出ています!】と書かれた看板が立てられたお陰か…。不法投棄が0にはならないが、公園の入り口にゴミ箱はないものの、ゴミ袋がぶら下げられ、溜まれば誰かが回収してくれているようだ。
モールの敷地から引っ張ってきたのであろう三角コーンや、進入禁止の黄色と黒のポールなども破壊され、放置される…という痛々しい現実も、最近は無くなった。犬連れで睨みつけていても、気にも留めずに遊具の立て看板を力いっぱい揺すって外してやろうと暴れているティーンの姿も、最近は見ない。唯単に、例年以上の寒波に見舞われた“真冬”であることが影響しているのではないか?と、今、書きながら気付くくらい、何だか私は世の中から離れたところにいる。暖かくなったら公園は、再びゴミと暴れん坊に支配されるのかも知れない。
犬の散歩に行く。早朝の散歩に行くようになって、かれこれ半年以上になるが、休息期間に入って、毎日思っていることがある。
開店前のショッピングモール。始動前の工場たち。
出勤のために埋まり始める砂利の敷かれた、元は空き地だった駐車場。何処の会社が買い取ったのか、やってくるのは男性ばかりで、皆モスグリーンの作業着を着ている。職場からこの駐車場は離れているのか、フェンス越しに立てかけてある折り畳み自転車や普通の自転車に、乗り換えて行く人も少なくない。歩いて行く人も勿論いるが、辿り着く場所まで見送ったことはまだ一度も無いので、少し遠いのではないかと読んでいる。
オープン前の準備には大分時間がかかるのか、モールの駐輪場にも一人、二人と、バイクが乗り付いてくる。車輪に吠えまくる我が犬に、にっこり微笑みかけてくれる人も…。去年が今ならこう思っただろう。
『みんな仕事してるのに、私には居場所がない』
うまくいかない就活に居所を失くし、社会から疎外されている気がしてずっと後ろめたかった。
今も仕事をしていないが、思うことは違う。
『どっかこの辺で、私も働くところ…ないやろか…?』
工場やショッピングモールで働きたいというのではない。嫌だというのでもない。唯、自分の家の近くで、公共交通機関に頼らず、通勤時間を費やさずに、ちょっと歩いてしっかり働いて、またちょっと歩いて帰って来られる場所に、私が身を置ける場所はないのだろうか…。そんなことばかり考えるのだ。
今年の秋、今あるショッピングモール沿いの国道を跨いだ向かいに、新たな商業施設が出来る。それまで待てば、“近場で働きたい”という私の希望が叶う可能性がないこともないのではないか。唯それは、近いだけで自分のしたいこととはまた別だ。
接客業が向いていないのは自覚している。それに勤務時間が固定で、平日と休日の割り振りを明確にすることも難しいだろう。そして恐らく、正社員という立ち位置で自分の一生を自分の足でしっかり歩く、経済的自立には程遠い。目の前にあるモールの求人を見つけても、パートやアルバイトしか見たことが無い。
したいことは山のようにある。しかし方法がわからない。ひとつひとつ準備して達成していくには、基礎固めさえまだ出来ていないのだ。
このところ求職サイトのCMが、ひっきりなしに流れている。
【したい仕事が見つかる】なんて嘘っぱちだ。私はもう、2年も見つかっていない。