明け方…外で響く声
このところ転寝癖が再発していた頃のこと。気候のせいか、夏の疲れが出やすくなっていたのか、朝、目覚める時間は夏場より遅くなっているのに、体力が夜まで持たなかった。
転寝した後、日付が変わって入浴し、明け方、再び入眠する。一、二時間眠れるか、そのまま眠れないで朝を迎える。大方、犬に起こされ、散歩に出かけるので、起きる時間は割と規則正しい。
この日、再び布団に入ろうとしたのは、3時だったか4時だったか…。気配は秋だったが、まだ暑さが残り、エアコンは必要なくなったものの、窓はシャッターを半分だけ閉めて、網戸にしていた。それぐらいが丁度良かった。
布団に入った後、屋外から、奇妙な声だか音だか、よくわからないものが聞こえる。規則的なようでいて、不規則でもある。それでも止まない。聞こえなくなったと思ったら、聞こえてくる。何なのかわからず、しかし気になって、網戸を開けてシャッターを潜り、ベランダに出てみた。
過去、隣家で何時間も人の絶叫が聞こえた。怒鳴り声、泣き声、深夜2時3時から何時間も続き、とうとう警察を呼んだ。寝ていられないという理由だけでなく、夫婦喧嘩というより、児童虐待を疑ったからだ。結局、警察が来た後も絶叫は続き、私も眠れないまま、心拍数が上がった状態で朝を迎えた。
今回も喧嘩や叱責を疑った。何処かで誰かが叫んでいる。しかしベランダに出た時点で、それは隣家でも近所でもないことがわかった。しかも、叫び声ではない。もっとくぐもっていて、静かな声、もしくは音だった。
一瞬、幽霊の声かと思った。生まれてこの方、幽霊に出会ったことは無いし、幽霊の声を聴いたこともない。屋外の何処かから聞こえてくるのは、そんな聞いたこともない声か音だったから、それこそ聞いたことのない幽霊の声なのではないかと思ったのだ。
音の方向を探す。近所ではなく、それでも近隣の、学校のある方から聞こえてくるよう気がした。
街灯と月、僅かばかりの星明りの深夜。明け方と呼ぶには暗すぎる、しか丑三つ時は過ぎていて、幽霊やお化けが出ると言われる時間帯ではないようだ。
声だか音だかは明け方まで続いた。しかしこちらも、いつの間にか眠っていたので、それがいつ止んだのかわからない。奇妙な音だったが、心拍数が上がるような、誰かの絶叫や怒鳴り声ではなかったから、私も眠ってしまったのだろう。
朝起きて、深夜の音の一件を母に話した。
「牛がお産でもしてたんと違う?」
果たして…可能性はなきにしもあらず。学校は農業が学科のひとつである高校で、そこには牛だって暮らしている。私は牛のお産に、生まれてこの方、立ち会ったことは無いし、お産の時、牛がどんな声を上げるのかも知らない。そうであれば、難産だったのか、そんなものだったのか…。
たまたま夜風が心地良いから窓を開けていたこの日、たまたま転寝して明け方再入眠したせいで、奇々怪々な現象と錯覚しただけで、年に何度かあるのかないのかわからない、高校の牛のお産と被ったと考えても、別段おかしくはないだろう。
それにしてもしかし…。私が転寝から目覚める時間って、丑三つ時が多いようだと気付く。呼ばれているのかたまたまなのか、しかし未だ、幽霊やお化けの類に出会ったことはないから、深夜であろうが明け方であろうが、夜なんてちっとも怖くない人間になってしまった。これってむしろ、どうなんだろうと思う。