不調の理由
何かがおかしかった。いつものように午後からパソコンを開き、リアルタイムや録画の番組をかけながら一通りネットの情報を探る。何故か落ち着かず、イライラした。
やがて肩こりと頭痛を併発し、気分が悪くなってきた。いや、逆だったかも知れない。先に気分が悪くなって吐き気を感じ、肩こりと頭痛を自覚したのは後のような気がする。とにかく、パソコンの前に座っての作業を、続けていられなくなった。
トイレに行った後、二階には誰もいなかったので、母の部屋のベッドに横たわった。屋主は三階の、パソコンの隣の部屋で犬と共に爆睡中だ。今日は数ヶ月に一度の定期健診に行き、ぐったり疲れて帰って来たから、「眠たい」と言いつつ眠れずに、Youtubeばかりスマホで見なくても眠れたようである。
横になってはいるがしたいことが山のようにある。続けたかったパソコン作業を、中断したままだ。しかし起き上がって座るということが出来なかった。
昨日読み始めたばかりなのに、先が気になって仕方がない本があったので、同じ階の、洗面所に置いてあるのを取りに行った。
横になり、ストレッチポールで肩や首の周辺を解しながら続きを読む。吐き気も頭痛も治まらなかったが、本は読み終えてしまった。
体調がおかしくなった直接の原因に、部屋を出る時、何となく気付いていた。解凍した幾つかの保冷剤を乗せて防御してみた。やめて、ストックしている犬のトイレシート二枚で包んだ。それでも気になるので、ゴミを入れるために畳んでいた、元々郵便物が入っていた紙袋をすっぽり被せた。部屋を出たのはそれからだった。
私の気分を悪くしたのは、消臭芳香剤であった。
パソコンのある部屋には、犬のトイレが置いてある。しょっちゅう狙いを外すので、異臭が染みついている。徹底的に掃除しているつもりでも、完全に臭いは消えない。雨の日は特に、湿気と共に眠っていた臭いが立ち上り、最悪の事態になる。ビッグサイズの消臭ビーズを置いてはいるが、臭いが気になるということは、希望通りの効果を発揮してくれているわけではないのだろう。
アロマオイルと保冷剤で、消臭芳香剤が作れると知ってから、冷凍室に保冷剤が溜まる度にリサイクルしてきた。それらは各部屋に置かれている。直に嗅げば、アロマの香りがほんのり届く程度。実際どのくらい役立っているか効果のほどはわからないが、薄く色付けした透明ジェルのボトルは、置いてあるだけでも清涼感と癒しを感じさせる。唯、犬用トイレのビッグサイズは、効果最優先なので、毎回既製品を購入していた。しかし暫く外に出る機会に恵まれず、買い物のついでもなかったことから、直近では、グレープフルーツのオイルと大量の保冷剤を投入して、手作りしたものを使っていた。消臭効果は実感できなかったが、柑橘系の香りが最も体に合う私としては、時々直にボトルに鼻を近付けては、癒しの爽やかな香りを堪能していたのであった。
中身が殆ど無くなっていることに気付いた今朝、忘れないように前回の買い物で購入していた消臭ビーズに入れ替えたところだった。いつもは無香料の物を入れていたが、消臭効果がわかり辛いことと、部屋のカラーリングに合わせたブルーのビーズが、同じ値段の同じ容量で売られていたのを見つけて、初めて香り付きのものを購入したのであった。
ボトルの中を綺麗に拭き上げ、新しい消臭ビーズの封を切る。ブルー系のグラデーションが、ぼとぼとと音を立てる。途端に、シャボンの香りが充満した。
想像以上の香り効果に、犬のトイレに染みついたしっこ臭が消える。香り付き、すげぇ!と感激した。
溜まりつつあるテレビの録画をかけながら、刺繍をしていたら、急激な眠気に襲われた。毎朝5時過ぎに起きるが、今朝は前夜に不都合が重なり、日々のローテーション通りに行かず、おかしな時間に眠ってしまったのだった。入浴の機会を気にする潜在意識に何度も揺り起こされ、寝たり起きたりを繰り返した結果、風呂に入ったのは午前4時を過ぎてからだった。リズムが狂いまくっているお陰で、眠気に抗えなくなった。毎日昼寝する習慣がついて久しいが、この後、ぶっ続けて2時間近く寝てしまうとは思いもしなかった。
昼食後、パソコンの前に座った直後から、体は異変を訴えていた。午前中、何ともなかったのは、新しい消臭芳香剤から距離があったのと、眠ってしまったことも理由であると思う。パソコンから香りの元までの距離は、たった2メートルだ。
頭痛と肩こりが酷くなる原因ははっきりしている。連日パソコンの前で数時間過ごし、目もしっかり酷使しているというのに、習慣にしていたストレッチをサボりまくる日々である。なかなか望む仕事に巡り合えず、家で実りのない日々を過ごすようになって長いことは、ストレスを増大させてもいた。それは、明日への不安と、切っても切れない縁を繋いでるということに他ならない。こんな毎日がいつまで続くのだろう…。そう思いながら暮らす時間は、虚勢を目一杯張ったとしても、気楽だとは言えなかった。
化学物質過敏症。恐らくそのような症状が出る状態に、私は在ったのだろう。
母のベッドに寝そべったまま30分が経過した。
気分が悪い時はじっくり体を休めるのが身のためなのに、落ち着いてそれが出来ないのは、『仕事に行ってるわけでもないのに…』と自分を諫めるもう一人の私が常に頭の中で鎮座しているからだ。馬鹿だな…と思う。しんどい時は無理せず、ちゃんと休めばいいのに…と。しかしそれを容認出来るのは、自分がちゃんと望む仕事に辿り着いて、ばりばり働くようになってからだろう。いつでも昼寝が出来て、辛ければいつでも横になれる生活に甘んじていられないのは、長年私を育んだ、生きて行く上での良いのか悪いのかわからない癖だ。
この日、同室にいた犬は、母同様昏々と眠り続けた。おやつの時間である4時過ぎを1時間以上過ぎても起きなかった。もしかして、消臭芳香剤で気持ち悪くなっていたのではないかと心配している。
別の部屋用に紫色のラベンダーも同時に買った。こちらは未だ、ボトルが空かないので封を切っていない。中身を空にした袋でさえ、置いているだけでかなり香りが広がることを視野に、使うのであれば気を付けなければならない。
そしてこの部屋は、やはり無香料の消臭剤に替えようと思う。しっこ臭いくらいの方がまだマシだ。