両肩ぶつぶつ事件 ③
例の如く、食事をする場所に迷う。食べたいものは大体決まっていて、絶対入らない店というものも大体決まっている。フードブースをひと回りするが、絶対入らない店には、何度来ていても入らない。ゆったり座れてセットメニューがあり、千円から二千円まで。デザートやドリンクが付いていれば間違いはない。依って、粉物やラーメンといった類は省かれる。
何年も通っていると、店舗も多少入れ代わっており、「前ここにはあれがあったよね?」というのも少なくない。また「前、ここ行ったよね?」というのも少なくないのだ。
JRユニバーサルシティ駅からUSJまでの道中は、ユニバーサルシティウォークと名の付いたショッピング街である。年間パスを持っていればパーク外に出ても再入場出来るので、大抵食事はこの辺りで摂るのだ。
今回は少々冒険をした。シティウォークにはエビ料理を出す店が何軒かある。物凄く沢山の店舗があるわけではないのに、何故エビをメインのした店が複数あるのかわからない。パークで、海をテーマにしたアトラクションが幅を利かせているせいなのか、はたまた映画の影響なのか…。エビは嫌いではないが、エビをメインに据え置いて主張されても心惹かれず、ずっとスルーしていた。しかし、フードブースの端っこで静かにネオンを光らせている店頭を見ると、実はドンピシャなセットメニューが、密かに充実していることに気付く。値段も思ったより手頃。内容も、シーフードであってもエビが極端に主張しているわけではなかった。ぐるぐる廻っていても埒が明かないので、半ば強制的に「ここにしよう!」と決めた。
昼食時だというのに店内はガラガラ。各所に長方形の浅い水槽が設置されていて、中には大量のロブスター(?)がひしめき合っている。この子達が調理されるのかと思ったら、怯んで逆戻りしそうになったが、店員が私達に気付いてしまったので観念した。
案内された席は見晴らしが良く、快適であった。こんなに良い場所があったことも知らず、しかもガラ空きなのが勿体ない気がする。友人はパエリア、私はドリアの、其々セットメニューを頼んだ。注文制のフリードリンクのおかげで、お尻に根が生えるのは予想出来る。案の定、食べる口と喋る口が休まる暇が無い。いつものことであった。
嘗て、月に一度は会って話をする仲だったが、彼女が専業主婦から兼業主婦に鞍替えして以来、会う機会はめっきり減った。そろそろ二十年もの付き合いになる友人は、結婚して子どもを育て、仕事復帰した後、そろそろ子どもの手も離れそう…という、いかにも人らしい人生を彼女なりに歩んで今日に至る。
その間、私はかなり紆余曲折の多い二十年を送ってきたが、表面的には二十年前と殆ど変わっていない。働き、休み、転職し、休み、また転職して…という一部の変化の中でもみくちゃになっただけで、途中名前が変わったわけでも何かを生み出したわけでもなかった。
こんなことで良いのか…?
日々の生活の中で、そのような疑問が湧き出ることがなかったわけではない。しかし、自分の力ではどうにも出来ないことが山ほどあることを、彼女と出会うずっと以前に知ってしまった私は、若さゆえの心の浮き沈みに翻弄されながらも、意識的に無理をして生きることが逆効果であることをようやく悟ったのだった。
今、私は何の邪心もなかった頃のように、到底叶うとは思えないような夢夢しい夢を見ることが出来るし、ある程度日々の生活リズムが落ち着いてきたことで、精神状態も過去最高ぐらいに安定している。因って、足りないものを数え始めるとキリはないが、そこそこそれなりに幸せなのであった。