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保育所と保育士と

 保育士不足が指摘されている。
 二十四時間託児所の設置や、無認可・認定保育施設の増設、又、幼保一元化を目的としたこども園への変革途上の下で、潜在保育士の存在が明らかになりつつある昨今。保育士不足が深刻な原因とは何なのだろう。
 保育士…。嘗ては〝大きくなったらなりたいもの〟として、人気が高かった。しかし現実は3K(キツイ・汚い・給料安い)。過酷な肉体労働の体力仕事であると共に、職場での人間関係や保護者との関係などのストレスも大きい。保育士に求められるスキルも、子どもの保育のみならず、核家族化から起因した〝親育て〟という新たな役割が重視されるようになり、業務は拡大。低賃金に進歩が見られなくとも、現場で働く者にとって、心身の負担は確実に増えている。
 私は思う。保育業務に従事する保育士の労働条件は、守られているのだろうか?生活の安定や将来性は、きちんと見込めるのか?
見直すべき課題が山積みなのは明らかなのに、〝不足している〟という上辺にばかり焦点が当たり、根底にあるものを見て見ぬフリしていないだろうか?保育士不足を指摘する前に、考えることがあるのでは…?
 保育士の未婚率水準についてはどうだろう。出会いの場が無い上、結婚・出産をしてから続けにくいという側面は見逃されがちだ。産・育休を経てまで職場復帰出来るような奇特な現場は、決して多くない。何しろ激務なので、民間園などは未経験の新卒者採用を促進するも、使い捨て状態でベテランが育ちにくい環境にある。又、そういった園では、保育の充実や子どもの心の安定を重視する以前に、経営継続の面で現状維持を続けることに重点が置かれていたりする。これでは保育士は育たないし、良い保育及び子や親との良好な関係に、保証は見込めない。
 実際、比較的安定した環境が守られているのは、公務員の世界である公立か、一部の民間に限られ、あとは経営戦略として、見た目が派手な行事重視の保育内容による競争社会が生まれる。
 子どもの健やかな心の育ちというものは、〝研修〟等で再々テーマとして挙げられるが、それは人的・物的環境が整っていることが基本であり、そのプラスαとして実現するものであることは、意外と認識されていない。
保育の現場に於いてスタッフが共通意識を持ち、一丸となって〝良い保育〟を目指す為には、保育に関わる側が安心し、心に余裕を持って業務に専念出来るということが前提条件である。現場の実情を知らずして、やおら保育所・保育士不足を声高に叫び、充実させよと一方的に謳ったところで、根本的な問題をスルーした状態では何の解決にもならず、堂々巡りであり続けることに変化はない。
 こと、保育や介護等、福祉の世界では、直視的に起こる現実問題にばかり目を向けられがちで、そうなる過程や根本的背景は常に見過ごされがちである。3Kの現場では心のみならず、酷使されることで身体を壊し、職務を全う出来なくなる者も少なくない。その為、一般的なデスクワークに比べ、配慮されるべき項目は多くて然るべきであるはずなのに、実際はそうではない。
 非正規雇用の上に胡坐をかき、不当な上下を設けることが、この業界に果たして必要だろうか?〝良いスタッフ〟が失われつつあることに気付いている者が一体どれほどいることだろう。それが過剰なストレスや過酷労働に起因しているパターンは、決して少なくない。
 日本という国の、福祉に対する目は冷たい。それはある意味、福祉従事者の善意や良心を悪用していると言っても過言では無い気がする。悪循環の連鎖を断ち切る為には、その〝悪用〟の根を絶つことが絶対条件であるが、今の日本社会にそれを求めたところで、実現するのはいつのことかと思う。
 経営の現状維持に必死な民間園と同じで、目先のことだけに囚われて将来を見据えることも出来ずに、表面化した問題にばかり声を上げる…。まるで、過去の恩恵に目を瞑り、具体的な対策も挙げず盲目的に「原発廃止」と一方的に訴える人々と同じである。
 その現実に気付いて方向転換を図らない限り、この国の福祉業界に明るい未来は無い。

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