みかん届く
みかんが届いた。どうやら今年は、忘れられていなかったらしい。
我が家がみかんを外注するようになって、せいぜい3、4年だ。
母の実家はみかんの産地で、祖父母が健在だった15年ほど前までは、冬の間尽きることがないだけのみかんを、毎年送ってくれていた。祖父が他界し、祖母がひとりではみかん作りが出来なくなって、畑から離れて以降、みかんの木は全て切られてしまった。その後、祖母も体調を崩し、施設や病院を転々とした後、3年前に祖父の元へと旅立った。
祖父母の作るみかんで育った私は、世の中に出回っている市場のみかんとの味の差異に、何年も違和を感じていた。品質も種類も、祖父母のみかんを超えるものに、出会えなかったからだ。
それでもないよりはあった方が良い。母の弟が気を利かせて購入したものを送ってくれるのに加え、田舎の方で働いていた時には、炉端で売られている露地物を大量買いしたり、母がスーパーなどで購入して凌ぐ生活に、徐々にシフトチェンジしていった。
数年前、同窓会があった母の集団が、九州に居を移して、一からみかん作りを始めたという同級生の一人に招かれた。そこで出会ったみかんが、祖父母のみかんに最も近いということが判り、以後、その農園に発注することになった。売り物にするにはサイズが小さかったり、皮に傷があったりする。そんな訳アリ品で充分なので、年に二回ほどに分けて送ってもらうことにしたのだ。
しかし、発注しても送られて来ない。待っているのに、年内に届かない。問い合わせると、注文を受けていないとか、未だ送ってなかったっけ?と返答されることが続いた。味の評判を受けて発注した母の知人には、ちゃんと送られていたりするので、一体どうなっているのだろうと毎年首を傾げるのであった。
実は母は、その同級生に嫌われていて、わざと発注を無視されているのではないか…。妙な疑いすら頭に浮かんだほど、「いつ頃に何箱お願いします」との依頼は、尽くスルーされた。
かと思えば、以来時期より早く、品が届いたりもする。叔父が送ってくれたものと時期が被ると腐らせてしまうことにもなりかねないので、頭を抱えた。
とはいえ、祖父母の味に近いみかんは、その農園以外で手に入らない。叔父が送ってくれる高級な新種も、それはそれで有難く美味しいが、私の血はみかんで出来ているのか、最も欲するのはやはり祖父母の味だったから、いきり立って品が手に入らなくなる方が困るのであった。
年内にひと箱、年明けにひと箱、今年も発注した。年内のひと箱は、注文通り届いた。叔父が二回に分けて別の種類を送ってくれたことは想定外だったので、やはり時期は被ってしまったが、後者は日持ちするタイプだったので、かなり注意しながら腐らせる率を徹底的に下げた。
年明けのひと箱が届かないまま、1月も下旬に入ってしまった。
「連絡した方が良いんちゃう?」
話していたが、面倒になったのか、母は「もういいわ」と言った。もう、その辺で買おうと…。
数日後、みかんが届いた。問い合わせはしなかったが、ちゃんと届いた。〝年明け〟の定義が一体いつからいつまでなのかは知らない。我々の認識では、七草粥をいただくあたりか、せいぜい鏡開き頃。気を長く持って小正月といったところだろう。一方、某農園の感覚では、二十日過ぎてようやくだったらしい。
結論として我々は、あちら様は忙しいのだと思うことにした。丁度、叔父の送ってくれた新品種も終わりが見えかけていたところだったので、タイミングとしては良かったと言える。
年明けのみかんが届いた翌日、母は代金を、郵便局へと振り込みに行った。関西人はせっかちなのかも知れない。