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再び旅行へ 自分らしさを取り戻す

また、旅行ができるようになった。

感染状況についての話ではなく、自分のこころが、また旅行を楽しめるようになった。ここ数年、旅行に行けなくても何とも思わなかったのに。
最近、数年ぶりに3泊4日の旅行をしたら、思いがけず自分のこころの回復を感じた。元の自分に、少し戻れた気がした。
本当に行って良かった。今日もまだ、旅の余韻に浸っている。


以前、私は旅行が大好きだった。海外旅行に行くことが生きがいだと思っていた。翌月のシフトが出て連休があることがわかると、すぐに旅行計画を立て始め、情報収集やパッキングも楽しんでいた。
10代の頃から、ひとり旅も何度もした。バックパックを背負って貧乏旅行もしたし、高級リゾートホテルに泊まったこともある。数えきれないほど、旅の写真がある。

そんな私が、家族との死別を経験してから、遠くへ行きたいと思わなくなった。


パンデミックになってから3年。世間の感染状況に関わらず、私は仕事の都合で行動制限がある時期が長く、旅行ができなかった。そういう状況で働いているからか、旅行したいという気分になることもなく過ごしていた。

ずいぶん変わっちゃったな、私。もう、以前とは違うんだ。もう、あの頃のような自分には戻れない。


普段の私の頭は、たいてい嫌なことに占領されている。プライベートの時間にも、仕事のことでイライラしている。
死別した家族のことは、常に頭の片隅にある。哀しみとは違う複雑な感情が、消えることはない。
何日も前から何かを計画して、その予定を考えてわくわくしたり、待ちわびたりということが、滅多になかった。

そんな生活の中で、2月のある日、桜の時期に旅行に行くことになった。
さっそくホテルを予約した。
今まで「全国旅行支援」は自分に全く関係ないものだと思っていたので、何だかわからなかった。ワクチン接種の証明書はどこだっけ。

旅行が決まると、ずいぶん前からウキウキしてくる。準備すら楽しい。あそこへの行き方を検索して。化粧水を旅行用の小さい容器につめかえて。天気は?気温は?何を着よう。
そうそう、こんな感じだった。
だんだんと頭の中に、嫌な考えよりも、あれこれ楽しみが増えてくる。


旅行中は、高台から見渡す街や観光船から見る景色に、胸が高鳴った。枝垂桜がゆっくりと揺れ、うぐいすが鳴き、久しぶりに幸せを感じた。
写真をとったり、スマホやガイドブックで次の目的地を調べたり、食事にお茶にと忙しい。
観光地への道順、時間、次の食事、明日の天気。日常を考えている暇はない。昼食を食べながら、もう夕食のことを考えている。

景色を楽しんだのはもちろんだけど、意外にも私の心に響いたのは、通り過ぎる人たちの笑顔だ。
まだマスクはしているけど、何年も前の光景と変わらない。こんなに外国人観光客が戻ってきていたなんて、知らなかった。日本人も外国人も、笑顔の人がたくさん。写真を撮ったり、食べ歩きしたり、みんなとても楽しそう。私も笑顔になる。

こういうの、もう長いこと、私の生活になかった。


帰ってきてからも、あの店は失敗だね、あれも写真にとれば良かったねと、旅の話でまた楽しめる。きっとこの先も、この旅行のことを思い出して、幸せな気分になる。



きっと一生、辛い人生になると思っていた。自分が、また前と同じことを楽しめるとは思えなかった。
仕事以外、人との交流も避けてきた。以前の私を知っている人から隠れるように暮らす、ひとりの時間が心地よかった。その快適な空間に閉じこもっていれば、安全だ。
違う景色を見たいとも思わなかった。

だけど、何かが変わり始めた。今とは少し違う、自分らしい暮らしがあるかもしれない。

これからは、自分の心地よい空間を少し出てみようと思う。


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