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天岩戸開き
弟が押し入れに隠れて20分が経過した。
午前中の買い物でおもちゃを買ってもらえなかったから拗ねているようだ。いつだってそう。
駄々をこねれば買ってもらえると思ってるし、大抵その通りだから困る。
父さんも母さんも、弟には甘すぎるんだ。
そんな愚痴を、こめかみの辺りでグルグルさせながら鉛筆を握り直す。はかどるはかどる。
襖の向こうからは相変わらずすすり泣く声が聞こえてくる。これは十中八九嘘泣きだ。
そんな重たい雰囲気の部屋で、最初に口を開いたのは父だった。
曰く、押し入れから出させたいと。
もうすぐ夕飯の時間だし、この空気をどうにかしたいんだろう。父は続けた。
曰く、こっちが盛り上がれば、気になって出てくるんじゃないかと。
母は台所から賛同している。
僕は適当に応援した。
母がやけに気合いを入れている。
あれはやる気だ。
そうして、押し入れ開き大作戦が始まった。
母がタンバリンをどこからか持ってきて、父がマラカスを手に構える。
そして、父が言う。
「アレクサ、サンバをかけて。」
始まった。
けたたましい音楽がリビングに鳴り響く。
そこにタンバリンとマラカスが参戦した。
踊る母、揺れる父、大混戦。
もはや宿題どころではない。
そして踊る母、その激しさはいよいよ勢いを増し、髪束が乱れに乱れている。
目的を忘れちゃいないだろうか。
襖は固く閉ざされたままだ。
1分ぐらい経ったろうか。
父がドジョウすくいをはじめた時だ。
笑いが込み上げてきた。
これは、よく考えると可笑しすぎて、笑いが止まらなくなってしまった。
2人はびっくりした様子で動きを止め、僕を見ているのが目の端で感じられたが、それどころじゃなかった。
笑えて笑えて仕方なかった。
笑ってるうち、笑い声は3つに増えた。
すると、押し入れの襖が、ぎぃっと開いた。
隙間からは、困惑した小さな顔が覗かせる。
いつのまにか、笑い声は4つになっていた。