専門家目線になる漢方薬の使い分け14〜ストレス対処の方剤〜柴胡剤②
前回に続いて、『柴胡剤』についてご紹介いたします。
今回は、『実証タイプ』に合う漢方薬2つ、
●大柴胡湯
●柴胡加竜骨牡蛎湯
のご紹介です。
『ストレスに使える』といっても、明確な違いがあるのでぜひ覚えておきましょう。
大柴胡湯
『大柴胡湯』は、ダイエットに使える漢方薬でもご紹介致しましたが今回は『ストレス』という面から詳しくご紹介いたします。
『大柴胡湯』は、日本漢方の視点で言えば『最も実証』のタイプに使う漢方薬で中医学の『証』では、『肝胃実熱・肝うつ化火タイプ』に使われることが多い漢方薬です。
『肝胃実熱・肝うつ化火タイプ』とは?
五臓の肝は、『疏泄』といって体内の気・血・津液をからだ中に巡らせる働きのある臓です。
肝は、ストレスで最も影響を受けやすい臓ですが、受け止める力も強いのですぐにはたらきが落ちるということはありません。
ただし、長引く過度のストレスがピークに達した時に、不調となって現れます。
『気・血・津液』のめぐりが悪くなるとさまざまなトラブルが起こりますが、特に『気』のめぐりが悪くなると、熱のエネルギーも同時に一部に止まってしまい、『火』を生み出します。
この火が神経を昂ぶらせて『イライラ』させたり、胃腸に影響すると食べすぎるという状態に繋がります。
(中医学では胃に熱があると食べても食べても満足しない状態になる)と言われています。
その他にも、気血の滞りによる肩こりや頭痛、胃腸に熱があることいよる便秘、胃炎などにも繋がります。
大柴胡湯の構成生薬
柴胡:清熱透表 疏肝解鬱 理気 昇発清陽
→ 余分な熱を冷まし肝の疏泄機能を高める 西洋医学的には自律神経調整作用や抗炎症作用
黄芩:清熱燥湿 瀉火解毒 涼血止血 安胎
→ 熱を冷まし体内の湿を除く
枳実:破気消積 化痰消痞 排膿
→ 気の滞りを解消し、痰を出す
大黄:清熱 瀉下通便 涼血 解毒 活血化瘀 通経
→ 余分な熱を冷まし、瘀血を除く
半夏:降逆止嘔 燥湿化痰
→ 余分な湿を除いて、気の流れを正常にする
生姜:発表散寒 化痰燥湿 温中止嘔 解毒
→ 余分な痰を除いて軽く邪気を除く
芍薬:補血斂陰 調経 緩急止痛 柔肝平肝
→ 血を補い筋肉の緊張を和らげて痛みをとる
大棗:補脾健脾 養営安神 緩和薬性
→ 胃腸の働きアップ
大柴胡湯が合うストレスのタイプ
日頃からストレスを感じていてイライラしやすい、興奮しやすい
胃のあたりがはった感じがある
タイプ。
ストレスで過食気味、高血圧、糖尿病、動脈硬化、脂質異常症などの生活習慣病のリスクや傾向があるタイプに良いでしょう。
大柴胡湯を飲む上での注意事項
便秘がない場合には、『大黄』を除いた、大柴胡湯去大黄 を選びましょう。
体を冷やす傾向のある生薬が多く含まれており、
冷えがある場合は基本的に使えません。
柴胡加竜骨牡蛎湯
柴胡加竜骨牡蛎湯は、大柴胡湯と同じように『ストレス』に効果的な漢方薬で、日本漢方薬の視点で言うと『実証タイプ』に使われます。
日本漢方でいう『実証タイプ』とは、
①胃腸が丈夫(食欲や消化機能に問題はない)
② 筋肉質 (がっしりしたタイプであることが多い)
③ 体力がある(疲れにくい)
④ 体温が高い(エネルギーを生み出しやすい)
が目安となります。
**中医学の『実証』とは正邪闘争(邪気と体の正気との闘い)で、正気が強いために出ている反応のことを指し、ここでいう「実証」とは異なります。
柴胡加竜骨牡蛎湯は、ストレスの反応が主に心理的な面に出た場合で、精神疲労によって不安や動悸、不眠やイライラ などがある場合に適しています。
大柴胡湯も柴胡加竜骨牡蛎湯も『イライラ』に使えると言うのは共通していますが、不眠や不安、動悸や重だるさなど、体や心が疲労している症状がより出ている場合には『柴胡加竜骨牡蛎湯』の方が適しています。
『肝うつ心虚・痰湿』タイプ
柴胡加竜骨牡蛎湯が合うタイプは『証』でいうと『肝うつ心虚・痰湿』タイプです。
『熱』や『火』よりも、痰湿といって、余分な水分が痰となって滞っていることが原因で気血の流れが悪くなっていて、エネルギーが十分に巡らずに体が疲れやすかったり重だるくなったりするタイプです。
また気のめぐりが滞ることで、大柴胡湯のタイプほど熱はありませんが、くすぶるような熱が生まれて神経を興奮させ、イライラや不安に繋がります。
柴胡加竜骨牡蛎湯の構成生薬
柴胡加竜骨牡蛎湯を飲む上での注意事項
大黄を含むものと含まないものがある、便秘がない場合は大黄を含まないものを選びましょう。
*ドラックストアなどで購入できるものでは、ツムラの柴胡加竜骨牡蛎湯には大黄が含まれていません。(その分、実証の方には効果が薄く感じるかもしれません)
大黄を含む場合は、胃腸が弱い、体力がない、下痢傾向などの『虚証タイプ』には使えません。