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アフガニスタン情勢:米国は何故失態したのか?
2021年8月15日、それは米国にとって歴史的屈辱の日となりました。反武装勢力タリバンが首都カブールを電光石火の如く陥落させ、そしてその「X DAY」は米国が想定した日よりも3ヶ月も早かったからです。では、なぜそうした「想定外」の事態に陥ったのか?
今回は、米国側の事情にスポットを当てて考察してみました。
1 アウト・ソースが常態化
私は2017年に離米するまでの3年間と1991年ー94年までの3年間それぞれメリーランド州とバージニア州に官民両方の立場で駐在経験があります。
このうち上記2回の駐在経験と最近の情報収集を通じて気がついた(気になった)点は以下のとおりです。
🔹 政府が掌握すべき情報部門の業務を民間にアウト・ソース(特に衛生情報、SIGINTとも呼ばれる)
🔹 米兵の民間委託化
2 アウト・ソースが招くこと
上記のような国の安全保障などに関わる業務(職業)を政府主導から民間に一部委託することで何が起きるか?それは、本来情報機関或いは軍隊が持つべき調査能力や愛国心に裏付けられた忠誠心が薄れるということではないでしょうか?
米国軍隊が第二次大戦で本気で日本とぶつかってきた時、その背景にあったのは日本軍に負けないくらいの愛国心があったからこそ忍耐強く情報収集に勤しみその情報を基として長期間の戦争にも耐えることができ、結果戦勝できたのではないかと考えます。
ところが、政府の専権事項である国家の情報収集を民間に委託すると何が起きるか?
業務受注して対価を得ることと純粋な愛国心とが一致しないケースすなわち身を挺してまでコア情報を入手する、あるいは国を守るという本気度が対抗する勢力(今回の場合はアフガニスタン国内の武装勢力、反体制・体制派の両方)よりも劣ってしまう場合、これによってもたらされる結果は推して知るべしかと。
3 アフガニスタンで米国側に起きたこと
これは、米政治学者のイアン・ブレマー氏が日経新聞の特別寄稿の中で次のように分析されておられます。
◉ 現状及び原因:米国の失敗(情報分析の甘さ、調整能力、退避プランニング、コミュニケーション不足の4つを挙げている)
◉展望:見通しは暗い。今後アフガンがテロの温床となる(アフガン国内の紛争地が今後世界中から国際テロリストを誘引)
◉結論:彼の言葉を借りれば「『何かはわからないけど、何かがあることはわかっている』というという事例はこれから飛躍的に増えていく」
すなわち、今回のアフガニスタンにおける米国のオペレーションは悉く失敗に終わったと結論づけています。
そしてその背景にあるものは、ただ一つ。情報量と情報の質が圧倒的に不足していたことなのではないでしょうか?
国家の安寧を維持するための極めて重要なレベルの情報収集を国家以外の民間企業にアウトソースすればその量と質は劣化し、ディシジョンメイキングする立場の判断ミスを誘発することは火を見るよりも明らかであったにも拘らず、米国はそれを20年間も継続したことが今回の撤退時期の情勢分析の甘さ、調整能力の欠如、誤った逃避プランニングの策定などに結実したものと考えられます。
軍隊の士気も同様で、傭兵レベルの愛国心ではタリバンの志士達のそれを上回ることは不可能でありそれがタリバンの電光石火の進軍と首都陥落をもたらしたとも考えられなくもないですよね。
今回は、国家の重要任務である情報収集と軍隊の運営をアウトソースしたらどうなるのか?という問題について実際にアフガニスタンにおいて発生した米国の失態を例に引いてお話ししてみました。
アフガニスタンとタリバンの問題は、日に日に情勢が変化し予想だにできない展開に発展することも否定できませんので、今後ともフォローしてゆきたいと思っております。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。