小説OJTポリス(警察学校編05)
英梨はポツリポツリと警察手帳紛失事案の概要について語り出した.
事案の概要はこうだ.
今年の5月某日、点検・教練の授業の事前準備として警察学校内の金庫内に保管してある英梨学級全員の警察手帳を各自の名前を点呼しながら確実に手渡し、授業本番では全員の手帳が無事であることを担任教官の英梨警部補は目視確認している.次の授業準備のため点検・教練を含む術科の授業は10分程度早めに終わるのが習わしになっているのだが、この日は教練の説明などが長引き授業終了が終了チャイムとほぼ同じタイミングという極めて短時間での手帳回収と金庫収納作業を強いられたのである.
そして一週間後の点検・教練の授業が始まる前、全員に例のごとく警察手帳を手交しようとしたところ、ある初任科生の警察手帳がなくなっていることが判明したのである.
最後にこの学生の手帳が確認されたのは前回の点検・教練の授業中と手帳を金庫にしまう前の回収時であり、この学生はそれ以来自分の手帳がどうなったのか全く知るよしもなかった.
紛失したタイミングは、前回点検・教練の授業終了後に英梨学級全員40名の手帳を回収するさいなのか?金庫に収納した後に誰かが金庫を開けてこの学生の手帳だけを抜き出したのか?の二つに絞られた.
ここで警察学校のクラス(教場)の組織というか、仕組みについて少し説明しておこう.
クラス(教場)には担任教官を補佐する補佐役として助教と呼ばれる巡査部長の警察官が存在する。また、40名の初任科生を取りまとめる世話役として総代と副総大というポストが設けられている.
英梨学級には浦賀好子巡査部長という30代の女性警察官が助教として、総代には多田誠が副総代には同前一郎がいた。
助教は、担任教官を陰で支えることが求められ父親的な役割の担任教官を母親的役割でこれを補助するのが通例である。浦賀はこの点英梨とペアを組んだ時点から通例とは違う、何かしら歪な感情を抱いていたようである。
この二人の確執については次回までお預けということで。
(つづく)