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昼の電車に思うこと

 少しだけ、のんびり家を出た。
 土曜日の朝。
「今日はゆっくり行きます」のひとことが許される会社で、本当に有り難い。
 いつもより少し重たい身体を、すばやく動かすことは、誰にとっても得ではないので、ゆっくり整える。いつもよりのんびり、ピアスと指輪を選ぶ。

 朝10時の電車は、いつもと違う匂いがした。
 土曜日だからだろうか。
 それもある、絶対にある。子連れが多い。
 でも、土曜日の、いつもの時間だと、こんなに賑やかではないような気がする。
 同じ街から電車に乗っているのに、なんだか不思議だ。
 どこか知らないところ、あるいは少し遠いところに、迷い込んでしまったみたいな……

 日差しも、ずいぶんと高い気がする。
 朝というより、昼の気配に近い。
 座席に深く沈んで、リュックをぐうっと抱える。
 極寒の二月なのに、とろりと包み込んでくる日差しは、暖かく感じる。


 もし、
 もしも、冬のお布団に似た暖かな幸福があるとしたら
 それは、昼間の電車かもしれない。と思う。
 別に急いでなくて、初めての場所に行くわけじゃなくて、安全性が確保されて、いつも通り揺られているだけなのに、ただ、昼間なだけの電車。
 もちろん、座っていることも条件になる。
 ゆったり、揺られてゆく。
 どこへ連れてゆかれるのか、という気持ちにもなる。
 会社なのに、わかっているはずなのに。
 今だけは、この日常の狭間に落ちたような、異次元を楽しみたいと思う。

 いつもと違うっていうのは、ときどきいいな。などと思う。
 それは、「いつもがある」っていう、有り難くもちょっと億劫な日々な先にあるわけだけれど
 たくさんじゃなくて、大変じゃなくて、何かをほんの少し、変えてみる。
 それは、許してみる、という言葉にも置き換えられるかもしれない。
 信じてみる、でもいいかもしれない。

 決して無理はしなくていい、自分のペースでいい。
 来られないときはそれでいいし、もし来られるようになったらいつ来てもいい。
 みんなが、口を揃えてそう言ってくれることを、わたしは今日、信じた。
「信じる」と決めた自分を、許した。

 ああ、日差しが暖かい。
 そのことがずっと、幸福でありますように。
 優しく、許したり信じたりしながら、生きてゆけますように。
 もらった愛情に、報いてゆけますように。

 努めて、願っている。



▼誰かに愛されたら、その愛に報いる生き方をしなくてはいけない。そのことを教えてくれたのは、「綿菓子」のおばあちゃんでした。





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松永ねる
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