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子どもと親の「精神的距離」。

きっとこの記事を読まれているみなさんの中にも、

「子どもと過ごす時間が増えた。」

という方が多いのではないだろうか。僕の勤務校でも在宅勤務が始まり、保育園からは、登園させないでほしいとの協力要請があったこともあり、子どもと過ごすことができる時間が大幅に増えた。このような状況だからこそ、できることを探し、工夫されて過ごしていることと思う。この際なので、「我が子との関係性を見直してみよう。」と思い立ち、取り組んでいる。そのような視点で考えた時、「自分が親になったら意識しよう。」と思っていたことを今更ながら思い出したので、自戒の念も込めて記事としたい。

子どもと親の「精神的距離」を左右する「塾」の存在。

高学年の子どもをもつ保護者との懇談会で、頻繁に出される話題の1つは、

「子どもとの距離感の難しさ。」

である。多くの子どもたちが、身辺自立を果たし、干渉されることを良しとせず、友達関係が中心で構築された「自分の世界」に入り込んでいく。

「子どもの世界」の中心は、学校生活の友達で組織されているが、同じくらい大きな世界を構築しているのが、「塾」である。以前勤めていた公立学校では、学級の半分以上が中学校受験に取り組むという風潮があった。

中学校受験対策に熱心な親御さんが多かっただけに、家庭環境についても特段問題があるようではなかった。しかし、そのような学級を担任していたときには、それなりの悩みもあった。その悩みを解決しようとしたときに知ったのが、スニヤ・ルーサーの研究である。

親の「所得」と「問題行動」の関係性。

コロンビア大学教育大学院の心理学の教授である、スニヤ・ルーサーは、低所得者層における思春期の問題について調べていた。その研究において驚くべき結果が分かったのだ。

アルコールやタバコのような問題行動、鬱にかかる割合は、貧しい地区ではなく、富裕な地区に多いことが分かったのである。そして、経済的に豊かな子どもたちが抱える悩みの原因は、「成果をあげることへの課題なプレッシャーと、精神、感情の両面における孤立。」である。          引用 ポール・タフ著 「成功する子失敗する子」

この結果は、当時赴任していた学校が抱える問題にばっちり当てはまった。「学級のリーダー」として期待される成果を出していた子どもが、高学年になるにつれ、問題行動を起こすようになったのである。

ルーサーの発見によれば、子どもの不適応を予測できる材料となる家庭の特質は共通しているということだ。

・母親のアタッチメントレベルが低いこと
・親が過度に批判的であること
・放課後に大人の目が行き届かないこと

これらが、共通した特質であると述べている。教師である僕らには、家庭の状況について確かなことは言えない。しかし、問題行動を起こしてしまう子どもたちと親の関係性を考えた時に、

「親のみとりと、子どもの実態のずれ。」

を感じることはできた。もう少し具体的に言うと、親から聞く「子どもの姿」と自分自身が学校でみとっている「子ども像」に大きな隔たりがあるのである。もちろん、誰しもが場所に応じた姿を見せるのが当然である。しかし、問題なのは、

「親が望んでいることと、子どもがしたいことの大きなずれ。」

があることである。そして、その「ずれ」が積み重なってきた結果、家庭でも学校でも問題行動として子どもの思いがあふれ出るのである。

「塾」に入れたから大丈夫という安心感。

このみとりの「ずれ」は、多くの場合、長期間に及んでいる。小・中の教師が集まって情報交換をした際にも、やはり親と子どもの「ずれ」が話題となった。特に子どもにとって辛いことは、

「塾での結果ばかりを評価される。」

ということである。これが、子どもとの「精神的距離」が離れてしまうことにつながる。「塾に入れたから安心。」というスタンスをとっている親と子どもの距離感は、離れていくばかりなのである。

・学校での頑張りを教師から報告されても、承認につながらない。
・実行委員や行事などの特別な活躍も承認されない。
・承認される基準は、塾のテストの出来栄え。

このような親の態度は、次第に子どもの学校生活へのモチベーションを奪っていく。知識は豊富なので、学習面での困り感はないが、友達関係のような学習面ではないところで、意欲の低下が見られるようになる。すると、塾でのテストでも結果がでなくなる。そして最終的には、親が子どもを確認できないくらい、精神的に遠い所へ行ってしまうのである。

子どもとの「精神的距離」を保つためにできること。

このような事態とならないために大切なことは、

「親が子どもに興味をもつ。」

ということである。そして、

「今日の学習内容や頑張った過程を楽しそうに聞いてあげる。」
「子どもに興味をもち、大げさに承認してあげる。」

という具体的な行動により、程よい「精神的距離」を保つことができるのだ。

まとめ

現在の子どもたちは、本当に多様な習い事に取り組んでいる。子どもたちの話を聞いていると、僕よりも忙しいスケジュールで動き回っている。そのような子どもたちが、通常通りの生活ができない今だからこそ、子どもとの「精神的距離」を見直してみるきっかけとするのも良いのではないだろうか。子どもは、「自分がしたことを認めてほしい。」という気持ちでいっぱいである。子どもの興味・関心に親が興味・関心をもって関わろうとすることが、より良い関係を築く上で重要なのである。

【参考文献】
 ポール・タフ著 「成功する子 失敗する子」(英治出版)


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