平日。レトルトカレーの夕食
疲れていても、家族のためにごはんを作らねばっ!…なんて思ったことなかった。疲れた日は簡単にお惣菜で間に合わせていたり、作り置きしていたおかずで済ませていた。
ごはんを作ることも食べることも好きだし。
あまり罪悪感がなかったのは、いつも「家族のためにごはんをつくる」ってことをしていないからではないかと推測する。
私は、私の食べたいものを作っている。
家族それぞれの好き嫌いはあるかもしれないが、詳細に把握していない。思えば母もそんな人で、嫁いですぐ里帰りしたとき出された夕飯が「牡蠣なべ」。母の大好物。私は牡蠣は苦手なのだ。母は私の好きな食べものは覚えていたが、嫌いなものは忘れていたらしい。
自分のためにごはんをつくり、家族で一緒に食べ、自分が一番満足している。
家族は何も言わない。
有り難い人生だ。
一緒に暮らす、夫の父が、たちの悪い病気を患い半年になる。長い入院生活を送り、やっと戻ってきた2ヶ月前、私が作るごはんはその頃からなんとなく変わってきた。
砂糖やみりんを甘酒(甘麹)に変えたり、塩麹・醤油麹・味噌の出番が多くなった。意識していなかったと思うが、夫も息子も私も大好きなカレーは回数が減っていた。
知らず知らず、じーちゃんの喜ぶものを作っていた。
じーちゃんが「紫のイモは甘いな」と呟けば、週に何度もコイケラボのパープルスイートロードを蒸していた。
今日、じーちゃんはまた入院した。
突然の入院だった。
じーちゃんは足を一本切り取る手術をする。
切り取った足は手術の翌日、火葬場で焼かれるらしい。
足だけ先に死んでいくんだな。
仕事帰り、今夜は何にしようかとバローへ寄ったがいまいち冴えないいつもの食欲。
今夜は、レトルトカレーにしよう。
昨日つくったおかずの残りものがあるから、それを添えれば満足度もあるだろう。
私の満足度だけど。
息子は何も言わなかった。
ありがとう。
父を病院へ送って帰ってきた夫は「はぁ」と短く低い声を出した。
疲れた顔をしていたのでちょっとだけ、小松菜の和え物を作った。
明日、久しぶりに里帰りして母の顔を見てくる。
ごはんは作らなくていいよ、
私が何か、作るわ。
2021.2.10