Endless Polarization Waltz
ミラーの次の記事にレンズを予想してくれた諸氏がいてくれたかもしれないが、残念ながら次は偏光素子である。
レーザの空間伝送にはミラーもレンズもたくさん使うが、偏光素子も思いのほかたくさん使うのだ。
偏光素子とは読んで字の如し、みんな苦手な偏光を制御するための素子である。
偏光を思い出そうと思ってくれた諸氏は以下リンクから、偏光を覚えてくださっている諸氏と偏光とは徐々に距離を詰めようとお考えの諸氏は、リンクの後にロケットみたいにダイブして頂きたい。
なぜ偏光素子を使うのか。
だいたいの光学素子を使う理由は、光学系の最上流にあるレーザ発振器と最下流の加工対象にある。
偏光素子を使う最大の理由は、レーザは発振器から直線偏光で出てくるのに、加工対象には円偏光で当てたいからにほかならない。
だから光学系のどこかに直線偏光を円偏光に変えてくれる1/2波長板が必要になる。
これで加工は万事解決、任務完了である。
だがしかし、直線偏光を円偏光に変えるためだけだと、波長板は1枚だけで十分な計算になるではないか。
全然たくさんではないではないと言いたい諸氏よ、偏光素子は果てしなく奥が深く、回りに回る。
終わらない輪舞曲のように、P偏光→S偏光→円偏光が繰り返されのである。
偏光素子には偏光方向を変える波長板だけでなく、偏光方向ごとの光を分離する偏光プリズムがある。
この2つの偏光素子を組み合わせると、なんと加工対象に当たる出力を制御する機能が出来上がる。
意外にもレーザ発振器本体に出力制御機能がついていないことがあったり、ついていたとしてもさらなる高精度で出力制御したいときには、このように偏光を使うのだ。
さらに2つの偏光素子と、偏光方向が反射のたびに90度回転する特徴を組み合わせると、加工対象からの反射光(戻り光)をレーザ発振器まで到達させない機能を作りだすことができる。
この機能は大変重要である。
仮に銅板をYAGレーザで溶接する場合、銅のYAGレーザの反射率は95%を余裕で超える。
銅を溶かしているレーザのエネルギの20倍は銅に反射され、全く同じ光路で光学系を鮭のようにレーザ発振器内部まで戻ってくるのだ。
10年くらい前はこの戻り光で、よくファイバーレーザは内部が破壊されたものである。
今は内部の破壊は起きにくくなっているが、内部のセンサが上手く読めなくなることは起こる。
そこで、鮭のような戻り光を途中で止めるためのヒグマのような機能が必要になり、それを偏光素子で作るのである。
このヒグマ機能によって、発振→加工→レーザ発振器壊れる、という終わらない輪舞曲は終わらせられる。
人類が戻り光に気付いたことは、平和のために自ら立ち上がったことに等しいほどの進歩であった。
レーザ屋さんにとって終わらない輪舞曲である偏光との付き合いはまた、レーザ加工に不可欠である。
偏光との終わらない輪舞曲を、今日もはないぬは冷や汗ダラダラで楽しむのだ。
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