見出し画像

アブレーション加工、産業へ

はねいぬの「アブレーション」の定義は完全非熱加工であること、というひき逃げから繋がるのが本記事である。

非熱加工はどんな加工になるだろうか。
熱での加工でなければ、切断でも穴あけでも表面除去でも良いが、溶接や溶融は含まれない。
共通しているのは、昇華もしくは分子結合の破断、そして原子の破壊である。
完全なる「アブレーション」は、文字通り熱を使わない加工なのである。
以上がはねいぬの「アブレーション」の定義であるが、果たして「完全なアブレーション」だけの加工は存在するのかが、次に考える点になる。

実際には「完全に近いアブレーション」だけの加工は存在するが、それはレーザ核融合くらいである。
「完全なアブレーション」だけの加工は、まずはパルス幅が短くないとできないし、1発目のパルス照射が終わりその影響もなくなった状態にならないと2発目のパルスを射つことができない。
とても美しい加工結果になるだろうが、同時に加工効率はすこぶる悪く産業には使いにくい。
これが「アブレーション」加工の真意であろう。

そのため現状の産業においては加工時の「アブレーション」の比率を高め、熱加工の割合を下げることで、結果として加工時に発生する熱の影響を大幅に抑えるなんちゃって非熱加工によって加工する。
パルス幅がピコ秒よりも短い超短パルスレーザを使った加工である。
ピコ秒とフェムト秒ではパルス幅は10の3乗も違うのだが、実際に使用するピコ秒レーザのパルス幅は10ps未満がほとんどで、フェムト秒レーザは300~500fsくらいであるので、パルス幅自体の違いは20倍程度である。
だがしかし、この20倍のパルス幅の差はとんでもなく大きく、加工に合わせて最適なパルス幅を選ぶことは、まさにレーザ屋さんのロジカルな推測とキャリアの見せ所である。

なんちゃって非熱加工に大事なもう1つの要素は、レーザの発振周波数である。
レーザの発振周波数は1秒あたりに、材料に照射されるレーザパルスの数であり、レーザパルス間の時間的な間隔を指す。
周波数が高くなるほどレーザパルス間の時間的な間隔が短くなるので、先に発振されたレーザパルスが材料に当たってから加工が始まって終わるまでの間に、次のレーザパルスが距離的にすぐ近くに当たることにある。
そうなると前のパルスによって昇華された加工対象が次のレーザパルスを散乱させて熱になりやすくなったり、前のレーザパルスによって加熱された材料の熱がまだ拡散しきる前に次のレーザパルスが当たり、加工部により熱影響が広がったりする。

パルス幅とレーザの発振周波数は時間の概念になる。
加工を1パルス単位で時間的に変化していく現象として捉え、なおかつ先に加工対象に照射されたレーザパルスが次のパルスへどのような影響を及ぼすかという時間的に連続的な加工としても捉えることで、なんちゃってアブレーション加工のメカニズムをやっと理解することができる。
残念ながらハイスピードカメラでも捉えきれないような加工現象は、理論と結果から考察しないといけないのだが、これが最高レベルに楽しいのだ。
非熱加工と呼ばれるなんちゃってアブレーション加工の真髄が、この時間的に変化する加工現象を捉えることにあるんだから。

いいなと思ったら応援しよう!