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アブレーション? 時間よ、止まれ

パルス幅がナノ秒くらいの短パルスレーザを使い始めると、先輩達が自然に口にするが全くもって初めましてなワードの1つは「アブレーション」であろう。
レーザに触れた経験の少ない人に向けて使うと、高い確率で時間が止まり刻も見えず、次にすべきことも見えなくなる。
そんな時間を止めて、刻も見えない状況を幾度も経験してきたのに、「アブレーション」という謎ワードが使い続けられているのは、このワードが使い勝手が良いからにほかならない。

なぜに使い勝手が良いのかというと、この「アブレーション」というワードは、とっても定義が曖昧でしかも広義なのである。
アブレーションの言葉としての意味は日本語で溶発である。
「溶けて蒸発する」というのが本来の意味であるのだろうが、レーザ加工においては溶断であろうが溶接であろうが、溶けて蒸発までしている。
それは溶接時に金属蒸気が見えるので明らかである。
レーザによる溶断と溶接をレーザ屋さんがアブレーションと呼ばないのは、たぶん材料の蒸発までにかかる時間が長いからである。
アブレーション加工ができるのはピーク出力の高い短パルスレーザであり、1パルスで加工対象を気体にまでできることが該当する。
パルス幅がナノ秒でも、ピコ秒でも、フェムト秒でもできることになるのだが、パルス幅がナノ秒とフェムト秒では加工が全く異なる。
材料への照射時間が10の6乗も違えば、ピーク出力も10の6乗も違うので、当然ながら昇華によって除去される体積も違うし、加熱による溶融に使われる熱量も違う。
レーザ照射後は、ナノ秒レーザでは熱による溶融と改質が集光径の倍以上の大きさで残るのに対して、フェムト秒レーザでは溶融はほぼなく改質も集光径の一回り大きいくらいと、加工結果としては全くと言っていいほど異なるのだ。
こんなに加工結果が異なるのだが、どちらもアブレーションとしてコミュニケーションが進む。

だから意味を理解する必要がなく、その場の状況に合わせれば話は進むし、お互いの真意が多少ずれていても補完し合えるので、よほどディープな技術討論にでもならない限りは、コミュニケーションミスも発生しにくい。
逆に言うと、アブレーションを定義することは難しい。
基本的には加工現象を指すのだが、どのような加工をアブレーションと呼ぶのかは、頭の良い学者先生方も定義が異なるくらいである。

なので、ここから先は、はねいぬのアブレーションの定義である。
はねいぬは、アブレーションは除去加工と捉え、その加工は熱加工ではないとしている。
これを非熱加工というレーザ屋さん界隈で一般的なワードに当てはめ、アブレーション=非熱加工と、はねいぬは定義している。
この定義は恩師からの受け売りでしかないが、全く否定する余地がないと考えている。
では、非熱加工について考えようと思うが、それは次の記事にしよう。
マジメなワードとマジメな議題は、読者も筆者も休憩をとりながら考えるのが1番だ。


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