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「極楽極楽」と心から思った瞬間

 大阪の某訓練施設に入所していた時に、自立訓練の一環でほぼ毎日通っていた銭湯に、昨日約1カ月ぶりに行ってきた。
 この10月からアパートで一人暮らしを始めてから、部屋のユニットバスが狭いこともあって、入浴はずっとシャワーだけで済ませていた。だから週に1回ぐらいは湯舟に浸かりたいなあと思っていた。しかし平日作業所から帰ってきてから夕方再び外出するのがめんどうだったり、週末銭湯に行こうと思い立った時に限って雨が降ったりと、これまで銭湯に行くタイミングを逃してきた。
 それが昨日の夕方、予報の割りに雨が降る様子がなかったので、行きつけになりつつある近くのパン屋さんに明日の朝食に食べるパンを買いに出たついでに、せっかくだしと銭湯に行ってみることにしたのだ。

 それまでは番台の人に毎回施設でもらっていた風呂券を渡していたのだが、今はもう施設入所者ではないので、一般のお客さんと同じように小銭を渡して入ることに、違和感というかちょっと照れくささを感じた。
 土曜日だからか5時半過ぎの銭湯には親子連れのお客さんが多かった。

 それまでと同じように脱衣所で服を脱いだ後、浴室に入り体や髪を洗う。
 アパートのユニットバスのシャワーとは違い、しばらくの間待たなくてもすぐに暑いお湯が出てくることに、早速幸せを感じた。
 温泉のお湯の柔らかさに、「そうそうこれこれ!」と、9月末で施設を退所してからまだ1カ月もたっていないのに、なんだか懐かしい気分になった。

 体と髪を洗い終えて、広いお風呂に足を伸ばして浸かる。
 このゆったりした広さと、お湯の暑さこそが、一人暮らしを始めてからずっと求めていたものだったのかもしれない。

 その後も施設に入所していた時と同じように、泡風呂と露天風呂に入った。
 泡風呂のブクブクした泡に、これまでの疲れがスルスルとほぐれていくようだった。
 露天風呂に入った時、思わずほーっと溜息が漏れた。「極楽極楽」と心から思った瞬間だった。
 「こんばんは。気持ちいいですねえ」
 よほど私が気持ちよさそうに浸かっていたのだろう。隣に入っていたご婦人にそう声をかけられた。
 「こんばんは。気持ちいいですよねえ」
 露天風呂に誰もいないと思っていたので、突然話しかけられたことに少し戸惑いながら私は答えた。こういうお客さんとのわずかな交流も、銭湯の良いところだよなあと改めて思った。

 お風呂上りは体が軽くなったようでとても気持ちよかった。
 ほんの1カ月前までこんないいところに毎日のように通っていたのである。なんて贅沢なんだろうと改めて実感した。
 これからの週末は週に1回、いや月に1回は銭湯に行きたいと思った。
 そうそう、帰りはいつもの慣れで施設に戻らないように気をつけなければと思った。

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