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夏祭りで覚えた孤独感

 先日我が地元で2年ぶりに夏祭りが開催された。
 祭り2日目の夜、姉一家と屋台が出ているお寺に行ってきた。孤独の始まりは家を出た瞬間からあった。
「あれー?久しぶりー」
「あー…!」
 家の前の道の向かいに、ベビーカーを押す姉の同級生が居た。
「めっちゃ似てるねえ」
 などとお互いの子供たちのことを話して同級生とは別れた。
 姉は前日に37歳になったばかりだ。30代後半ともなれば、結婚して子育てをしている女性は少なくない。私も現在35歳だが子供は居ない。まあもともと子供が欲しいとは思っていない方なのでべつに良いのだが。
 結婚のチャンスもあったけれど、いろいろと思うところがあって、結局自ら手放してしまった。そこに関しては後悔していないと言ったら嘘になるが。
 自分も30代後半の女性なのに、姉たちのように結婚もしていなければ子育てもしていない。その分やりたいことに専念できているのでそれはそれで良いのかもしれないが、それでも一般的な女性の一般的な生き方をしていない自分にちょっぴり寂しさを感じるのも本音だったりする。

 夕方とは言え少し歩いただけでも汗が吹き出してくるぐらい外は暑かった。
「なんか恥ずかしい。みんなが見てるような気がする」
 そんな中お寺まで向かう途中、上の姪っ子が何度もそう言ってぐずり出した。
「だいじょうぶだよ。今の時間は子供たちが少ないだけで、お寺に行ったらみんな浴衣着てるから」
 とバーバ(母)も何度もそう言ってなだめている。どうやら浴衣を着て歩いているのが自分たちしか居ないのを恥ずかしいと思っているようだ。
 姪っ子が着ている浴衣は、当日の午後に母が急遽買ってきた物だ。この町のお祭りでは女の子たちは皆浴衣を着ているので、彼女たちにも浴衣を買ってあげなければと思い、その日の午後に急いで買ってきたのだ。
 浴衣を着ているのが恥ずかしいと訴える姪っ子も、孫のためにと浴衣を買った母も、何だか少し気の毒に思えてくる。しかしその一報で、はたと引っかかる物を感じた。
 私も子供の頃町内のお祭りには何度か行ったことがあったけれど、浴衣を着せてもらった覚えがないのだ。というかこの町のお祭りでは女の子たちは皆浴衣を着ていることを今更知った。それだけ自分が今までそのことを意識していなかっただけなのかもしれないが。
 子供の頃の浴衣の思い出と言えば、七五三の時に浴衣を着せられたのだが、浴衣だと自由に動けないし、トイレにも行きにくいしでものすごく嫌だったことぐらいだ。生まれつき全盲の私には、浴衣のかわいさや綺麗さもよく分からなかったのだ。そんな私の思いを組んでくれたのか、以来母は私に浴衣を着せなかったのかもしれない。もしそうだとしたら、子供の頃姉や妹は浴衣を着て夏祭りに行っていたのかもしれないと思うと、今更ながら浴衣を拒否した自分がとても悔やまれる。

 お寺に着くとまず入り口で的当てやヨーヨー釣りなどのチケットを買った。私が知る限りの夏祭りでは、事前にチケットが家に届いていたような気がしたのだが。いつの間にシステムが変わっていたのかーと驚いた。
 お寺の中はコロナ渦とは思えないぐらいのすごい人だった。そんな中を姪っ子たちは早速ヨーヨー釣りや的当てをやるためにそれぞれ並び始めた。
 一報の私はものすごく退屈だった。ヨーヨー釣りも的当ても、全盲の大人が楽しめそうなゲームではないし、たとえ楽しめたとしても、姪っ子たちを差し置いて35歳の良い大人がはしゃぐのも何か違うような気がする。例年の夏祭りのように、焼きそばやかき氷など食べ物関係の屋台があればそれなりに暇を潰せたのかもしれないが、今年からそれらの屋台はお寺の傍の駐車場のキッチンカーに集約されているようなので、なおのこと居場所に困った。
 そんな中母も並んでいる的当ての列の中に知り合いを見つけたようで話に花を咲かせている。さらに居る場所が無くて困った。
 暇つぶしにと周りの人たちの声に耳を傾けてみた。「次恋みくじ行くか」というようなカップルらしき男女の会話や、「あいつずっと話しかけてきてうざいんだけど」というような学生らしき女子同士の愚痴っぽい話が聞こえてくる。
 それらの話声を聞いているうちに思った。私には町内の知り合いが居ない。幼稚園の頃からずっと近所から少し離れたところにある盲学校に通っていた私には、大人になってからもたまに会うような同級生も、近所の夏祭りに誘えるような彼氏も女子友達も、婦人会などの町内の集まりで仲良くなった友人も知人も、近所とほとんど関わりの無い私には全く居ないのだ。改めてその事実に気づいて、何とも言えない孤独感を覚えたのだった。
 相変わらず外は暑いし、人は多いし、やることもない。こんなことなら夏祭りになんか行くんじゃなかったと正直後悔した。来年はクーラーが効いた家で留守番することにしよう。

 そんな孤独感と後悔を引きずりながら家へと帰る途中、夏祭り恒例のおみこしとすれ違った。2年ぶりに聞く笛の音と太鼓の音と人々の声…。ようやく夏祭りを肌で実感できた。そうだ、これがいつもの夏なんだよなあ。ついでに帰りにキッチンカーで買ってきたたこ焼きとみたらし団子もとても美味しかった。

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