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アーネスト番外編スピンオフ/ナヲズミ編(6)

ここまでのあらすじは
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第6話

それから、母のフユミがいなくなってから、1年後。

ナヲズミは、高校2年生の17歳。
弟のヒロキは、小学6年生の12歳になった。


台所から、ヒロキの声が聞こえてきた。

「はいっ、これ、お父さんの分の朝食ねっ!
それからこっちは、兄ちゃんの分っ!」


父のコダマが、朝の出かける準備をしながら こう言った。


「ああ。いつもありがとう、ヒロキ。
――でも、無理しなくたっていいんだからね。

朝が眠いときは、お父さんが3人分で朝食を作るから。」


そう言われて、ヒロキが答えた。

「ううん。おれ、早起きするのは得意だし!
それに、お父さんや兄ちゃんには、
栄養のあるものを食べてほしいもんね!


夜ごはんで お父さんが
いつも作ってくれるかわりに、朝食とか、
たまにの休日のお昼の分とかは、おれに作らせてほしいんだ。

兄ちゃんだって、高校の勉強とかで
忙しいでしょ?」

そこに、ナヲズミも起きてきて、
すでに完成済みのお皿を見て こう言った。


「…ヒロキ、また今日も朝食を作ってくれたのか。

……今日のオムレツも、よく出来てると思う。
いつもありがとう。」


「でしょ でしょ~?
今日のおれの自信作だよ~~っ!」

自慢気な様子で、ヒロキが答えた。


その様子を見ながら、ナヲズミも
弟に合わせて言った。


「ああ。ほんと、ヒロキは俺や
父さんよりも、料理の才能があると思うよ。」


「わぁ、やった~~!
ありがとう、兄ちゃんっ!」

そこに、納得せざるをえない
父のコダマが言った……。


「うん、確かに、…お父さんが作ると、急いで
作ることもあるからか、
オムレツやウインナーを焦がしちゃったりすることも
あるからなぁ…。

夜ごはんの準備は、
叔母さんや、おばあちゃんが手伝って
来てくれるから、うまくやれてるものかな……。ははは。

お父さんも、木工製品の木彫りのことなら、
上手くできるんだけどなぁ……。」


「ヒロキは特別だもんな。
小さい頃から、よく母さんの間近で、
料理をするところを見ていたから。」


「あっ…、うん……っ!

…でもっ、おれが特別だなんて、そんなことないよっ!

おれは兄ちゃんみたいに頭も
ずばぬけてよくないし、
おれからしたら、兄ちゃんのほうが特別なんだよっ!

…だから、自分に
できることをしようって思ったら、
自然と料理になったっていうだけで……。」

そこへ、心配そうな父が ふたたび口をはさんだ。


「でもなあ。……料理を作ってくれるのは
ありがたいけれども、
ヒロキもまだ、小学6年生だし……。

台所で、しょっちゅう包丁とかを
使わせてもいいものかどうか、
お父さん心配だよ……。

って、彫刻刀で、刃物で仕事をしている自分が
言えた義理じゃ
ないかもしれないけれども……。」

朝食を食べながら、そんなふうに伝えると、

ヒロキはどこ吹く風といった感じで
かるく答えた。


「だいじょ~ぶだよっ、お父さん。

もうおれも小学6年生なんだし、
6年生っていったら、家庭科の授業でも、
ある程度 調理実習とかも入ってくるんだしさ。

上手な子はね、すごいんだよ~~っ。


…包丁とかも、すらすらとすごく滑らかに、
ぜんぜん危なくない調子で使っていくんだから。

……だから自分も、うまくなりたいんだっ。
練習あるのみ。

…それには、いつも作っていくのが、
いちばん上達していくのに手っ取り早いからねっ!」


その言葉に噓がないとわかるように、
心底楽しそうな様子で、ヒロキは笑顔で答えた。


父も、それに納得をしたのか、こう返事をした。


「うん…。そうだなぁ…。

……彫刻刀の使い方だって、日々の、
毎日の積み重ねで、
上手くなっていくものだし…。


……分かったよ。
…でも、ケガとか火傷だけには、
じゅうぶんに気をつけて。」


「うんっ!約束するっ。」

ヒロキが頷いたところで、ナヲズミが言った。


「じゃあ、俺はそろそろ、
先に学校に行って来るから。」


「ああ、気をつけてな。ナヲズミ。」


「うん。父さんも。――じゃあ、ごちそうさま。ヒロキ。
ヒロキも学校、気をつけて。」


一軒家の自宅の玄関を、ナヲズミは出て
学校へと出発する。
ナヲズミは、地元の北海道で、進学校へと通っている。


…1年前に、母が亡くなったときに、いっときは勉強に集中できずに
一時的に成績も下がってしまったが、――すぐにまた、
取り戻したようだった。


それもまた、母が健在だったときに、
高校受験で受かったことを母に伝えたときに、

母がうれしそうな表情をしてくれたことを
ずっと覚えていたからも
あるのだろう。


――お母さん。…俺、第一志望の高校に、受かったんだ。


――ええ!?ほんとうに!

すっご~~い!
さすがナヲズミね!

きっと、お母さんの血を引いてくれたんだね。
……ううん、それとも、
ナヲズミの、努力家の性格が、実を結んだのね。


…お母さん、ナヲズミがいつもコツコツと、
努力を積み重ねられる性格なのを、
いちばんよく知っているからね。……おめでとう、ナヲズミ。


そう言って、母はずっと、喜んでくれていた。
この嬉しさが、病気を治すきっかけに変わってくれればいいと、

そう信じて思っていた。


……結果的に、…母のフユミは、その1年後に、天国へと
旅立ってしまったのだけれど……。


…それでも、あの時に、こんなに喜んでくれたのだから、
きっと自分がいなくなってしまったことで

息子の成績が下がってしまうことは、
おそらくは母も淋しいに違いない。


…そう思い直して、ナヲズミは、
再び高校の勉強に力を入れて、
成績も取り戻すことができたのだった。


ナヲズミに関しては、こんな具合だった。


そして、弟のヒロキに関しては、
さきほどの光景のように、

母のフユミが亡くなってからは、
家族に料理を作ったりしては
よくお手伝いをしてくれるようになっていた。


ヒロキも、家ではなるべく明るく元気に過ごしているが、
まだ小学6年生の12歳だ。…本心では、母がいなくて寂しかったことも
あることだろう。


けれども、そんな彼の様子を、クラスの担任の先生も
ときどき気にかけてくれているようで、それだけはありがたかった。


友達関係も、ヒロキの人柄のよさなどから、
友達の何名かで親しく (でも、むりに明るく振舞いすぎずに
過ごせる仲間と)
過ごせているようだった。


台所で料理にとりかかっているときには、
ふと、母が隣にいた時の場面を
よく思い出せていた。


***

「いい?ヒロキ。料理もある意味、
理科や科学の実験みたいなものなんだよ。」


「じっけん?」


「うん、そう。――今日も、美味しくできるかどうかの、実験っ」


「あははっ!」

――母が居なくても、料理をしていれば、母と
つながれるような気がする……。


ヒロキが保育園生のころに、よく母が
お弁当を作ってくれていたことは、いまでも彼にとっての
大切な思い出として、心の奥に残っていた。


母がいない寂しさを忘れて集中できる料理は、
ヒロキにとっての、いまの興味の関心ごととなっていた。


――そんな弟の姿を見ながら、兄のナヲズミは、
よくこんなふうに考えていた。


(ヒロキは偉いな……。
まだ、小学6年生なのに……。


ヒロキなりに、自分で毎日の生活を、
1歩ずつ前向きに過ごしていこうとしている……。


その姿勢はすごいな……。自分も、頑張らないと。)


ナヲズミは通っている高校では、
とくに部活は入っていない。

(家のことも考えて、部活に入ると
帰る時間も遅くなると考えてのことだった。)


そのかわりに、家の時間や、勉強の成績を優先しては
保ち続けていた。


学校の友達づきあいは、そこそこ話す関係の友人はいるものの、
家に友達を呼んだり、また、誰かの家に自分が遊びに行くことまでは
していなかった。

(家に友達を呼ぶことは、どちらかというと
ヒロキのほうが多かった。


――おかげで、家に弟の友達が来たときは
家の中も にぎやかになって活気もあったし、

…また、それを口実に、
高校の知り合いを自分の家に呼ぶことも断われて、
ナヲズミは心の中では助かっているようだった。)


高校生ともなると、いろんなことを、考え始める時期だ。


自分のこと。家のこと。将来のことなど―……。


彼にとっては、いまは学校のクラスメイトと
にぎやかに過ごして
気持ちをまぎらわす時間ではなく、

…自分の気持ちを向き合って、
静かに過ごすの時間が合っていたのだろう。


「亡くなった人は、星になって、
今いる人たちのことを、空から見てくれている」


――そんなありきたりな言葉を、
ナヲズミは心の中で反芻していた。


(北海道の夜空は……、ほんとうに、
ここから眺めると、途方もないほどに広くて大きいな……。)


亡くなった人たちは、
本当に星に変わっていくのか――…。

もしそうだとしたら、それは…どんな光景なのだろう。


空から見ている、
この場所への、光景は。


***


夜の時間。ナヲズミはよく、
家の外の庭に出ては、夜の星を眺めていた――。


父が部屋の窓をあけて、
「外、寒くないか?部屋の中に戻らないかい?」と声をかけても、
「もう少し、ここで星を見ている。」と言っては、
庭先で過ごしていた。


…北海道の空が、雄大な空と大自然を
感じられるものだから、
よけいに彼をそう思われるのかもしれない。

夜8時くらいの時間に、家の外の庭に出て、
1人で夜空を見上げて、星を見る日々。


自分の中で生まれたその問いかけを、
その答えを、科学的に証明してみたくて。


――ナヲズミは、母と同じく理科や天文学の分野に、
興味や関心が進んでいったのだった。


(部屋の本棚にも、宇宙などの天体系の書籍や、
夜空の星などの本が並んでいたことに、父が気付いた。)



それから、ナヲズミが北海道の大学に進学をして。


その情報を見つけることとなったのは、
――大学2年生ごろの、ことだった。


『宇宙飛行士のパイロット候補者を募集』


それは、この先のプロジェクトに向けて、
大々的な、壮大な募集の告知だった――。


(つづく)

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