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アーネスト番外編スピンオフ/ナヲズミ編(8)

ここまでのあらすじは
こちらからどうぞ👋

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第8話


国際宇宙機構の学びの場所では、
まさにインターナショナルといった具合だった。

さまざまな国や地域から、
宇宙飛行士の選抜となったものたちが
やって来て、日々の寝食や、学習や、訓練を共にしている。


そんな共同生活も、ナヲズミにとっては
合っていたようだった。


スポーツ関係のことには詳しくはないが、
もしもオリンピックの選手村とか、
あるいは選手の強化合宿の海外練習場とかは、こんな感じで
あらゆる国の選手が一同に集まって過ごしてるんだろうか、と思った。


(1人1人の人びとも、どちらかというと日常面の生活も、
そこまで敵意むき出しとか、ライバル意識を持って
ギスギスしているというよりは、
もっと終始 和やかで、穏やかな協力的なものだった。


…みんな、この人生に一度の貴重な体験や時間を、
楽しんで過ごしたいというのも本心だったようだ。


なぜなら、普段の生活をすごしていれば、
まず会えない人々なのだから。それは自分も、同意だった。)


もっとも、それだけではなく、宇宙飛行士の仕事は、
なによりも協調性が求められる。


……宇宙空間の、閉じられた場所なのだから。


……だからもしも、この共同生活の場所で
敵意むきだしのものや、ライバル心や競争心で
あふれかえってるものがいるとすれば、

その者はこの日常生活の面で 不適応とみなされて、
きっとパイロットにも選ばれなくなるだろう。


だからという訳でもないが、ここの場所では、
日常生活の時間では、みんなが皆、私生活の面でケンカやトラブルも
起きることなく、良好に、穏やかに過ごせていた。

(軽い冗談を言うことくらいはしょっちゅうあったが。)


また、ここにいる候補者たちのことは
基本的に個人のプロフィールは(各国のマスコミには)
非公開となっていたので、
よけいに謎めいていて、人々の興味や関心も引いていたようだった。


『宇宙飛行士の候補者/100名
――その中には、日本人もいる模様!』


***

ここにやって来てから
2~3か月の期間が経過した。

全体で過ごしてきて、だんだんと、
ここにいる全員の顔ぶれのことも、覚えてきた。


その中でも、とくに明るく目を引きやすい人物がいた。

日本人ではなく、外国の候補者だったが、
みんなを笑わせようとすることが好きなようだった。


(いわゆる、ムードメーカー的な存在だ。

その彼は、親しい仲間たちを、いつも笑わせようとしたり、

…かと思うと、ほんとうにドジをしては、
仲間たちが笑わせられる羽目になったりと。


――その彼によって、親しい仲間たちは、
いつも笑顔が絶えないような様子であった。)



――けれども、宇宙空間の場所では、
日々何が起きるか分からない。

想定外のトラブルだって、当然あるのだ。


ときどき、ナヲズミが
その彼のことを見てみると――。

彼は、学習の成績は普通くらいで、
けっして優秀といった具合ではなかったようだ。

さきほど説明したとおり、明るく社交的だけども、
どこか抜けている性格だ。


たとえば机を立ち上がる時に、

書類の束をぶちまけてしまったとか、
頭を壁にぶつけてしまった程度ならば、

持ち前の性格から、
まわりの人たちからも、笑って許してもらえる。


周囲の人々に愛されやすい、
その彼の特徴でもあるのだろう。



だが、緊急時や、想定外の宇宙空間での場面となると、
また話は別ものだった。


「自分のうっかりの性格で、抜けていたから」では、
万が一の場面で、仲間のことも、危険にさらしてしまう。


……うっかりでは、
すまされないことは、
彼自身も重々承知であった。


(一度、ナヲズミが廊下を通ったときに、
そのことを彼が指摘されているのを、ドアのガラス越しで
見かけたことがあった。)


―――まあ、個人の能力というのは、人それぞれ違うものだからなぁ……。


ナヲズミ自身は、彼とはそこまで多くは話したことはなかった。


ナヲズミにも、ふだんの日常生活をよく共に過ごす、
決まったグループの顔ぶれがいた。


(彼が普段過ごす、決まった顔ぶれは、
物静かな人物であったり、成績もいい冷静なタイプの人が多かった。


2~3人とか、4人5人くらいの決まった仲間と、
よく過ごしていた)


にぎやかな、その彼らのグループとは
さほど接点がないまま、ナヲズミ自身は過ごしていった。



**


ある日の昼食の時間。


食堂で、あの彼がいる、
賑やかな集まりのテーブルに目をやった。


彼の周りには、よく人が集まってくる性質のようで、
遠巻きに見ていても目立っていた。



――今日も、彼は なにかしらうまくいかないことがあって
落ちこんでいたようで、それを周りの友人たちが『気にすんなって』
『落ち込むなよ』『次があるさ』などと声をかけているようだった。



……ぼんやりと、見ているのか、

自分が気にかけているのかも分からないくらいの感覚で
見ていたナヲズミは、――無意識に、こんなふうに考えた。


(……人柄がよくて、人に好かれているから、――という理由で
パイロットに選ばれるほど、甘くはないのだろうな……。


最後には、『その人物に、パイロットを託せるかどうか』だ。


――最終選考の、10名に選ばれた瞬間、
選ばれたものは、責任と、それから仲間たちのことも、任される―――。

…それが、とても大きいという事は、自分にもよく判る――…。)



……もしも、ずっとこの先、
最終選考で彼が通れなかったとしたら、
あの彼は、落ち込むのだろうな……。


…けれども、たくさんの仲間に囲まれているから、
きっと何人もの人が なぐさめたり、励ましたり、健闘を
たたえたりするのだろう…。


……自分も、他人の心配だけじゃなく、
『パイロットを託せるかどうか』

――それに、ほんとうに選ばれた時のために、責任と、仲間の命を安心して任せてもらえるよう、励んでいくしかないな……。



――と、そこでテーブル席に座ったまま、
なかなか昼食を取らない彼に、横にいた仲間が
思わず言った。


『――Hey,ハクライ。昼食 食べないのかい?
料理が冷めてしまうよ。』


『あぁ、そうだった。――いや、いまから頂くよ。』


『ハハハ、訓練や日々の学習で、さすがにお疲れかい?
その気持ちも分かるよ。』

『あぁ、そうかもしれないな。ははは。』


さっきまでの考え事を振り切って、
ナヲズミは目の前の昼食を済ませていった……。


(つづく)

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