アーネスト番外編スピンオフ/ナヲズミ編(13)
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前回のあらすじ
夏の時期、実家の改築のために
都内から実家の北海道へと帰省してきた
ナヲズミ。
そこで彼は、かつて自分が取り組んできたこと、
目指していたことなどを振り返る。
そこには、自分が選ばれずに、
内心 自分よりも劣っていると
無意識に思っていた人物が選ばれて、
人知れず、強烈な嫉妬心の感情を抱えたことも
ひた隠しながら過ごした思いがあった。
そしてその後、自分が選ばれなかった
当時のナヲズミは、父と弟のいる
故郷の北海道の実家へと帰省をする…。
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第13話
それから、外国から数年ぶりに故郷の実家へと戻り、
父と弟のヒロキから、温かく出迎えられた。
「おかえり!兄ちゃん!元気にしてたっ?」
「むこうでの生活は、どうだったかな?
――いい仲間や友人には出会えたかい?
食事とかも、よく取れていたかな?」
「ああ。――もちろん。
健康面や生活面には、問題なく過ごせていたよ。」
…そうして、帰国したナヲズミは、しばらくの期間を
北海道で過ごしていった。
2人は、あまり事細かには、
ナヲズミには訊ねたりしなかった。
もちろん、ナヲズミ本人から話したことや、
日々の日常生活についてなどは
聞いたりはしていたが。
(ヒロキは、やはり毎日の食事で
どんな料理が出ていたかが気になるようだった。
弟のヒロキらしいと、みんなで少し笑った。)
―――それでも、最終選考のことなど、
核心をつくような会話には、2人とも気をつかって、
あえてナヲズミにそのときの場面や心境を尋ねるようなことは、
一切しなかった。
ここの、実家の場所に
いま居るということは、そういうことなのだからと――。
ヒロキも父も、重々それを理解して、
ナヲズミのことを実家の場所で、
あたたかく迎えたのだ。
決して、冗談まじりにでも、『なんで選ばれなかったの?!
――もしも選ばれていたら、自分の家族なんだぞって、
とんでもなく自慢できたかもしれないのに!……選ぶ人も、
見る目がないよねっ』とか、
『選ばれなかったことを、気にやまなくてもいいんだからな』
といった、その場限りの、ありきたりのなぐさめや
励ましの言葉さえも、きっとナヲズミには効かないのだろう…
と、弟も父も そう思っていた。
……ナヲズミに、自分たち2人から、
それを体験していない、その場にいなかった自分たちが、
何かできるかどうかなんて、それは分からないままだった。
なにかできるとしたら、
これまで通り、実家で過ごしていたときと
同じような様子で過ごしてあげることなのだろう……と、
父のコダマと、弟のヒロキは決めていた。
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当初は、その2人のやさしさに
ナヲズミも応えては、このまま実家の場所で、
しばらく過ごしていた。
―――だが、ある夜のこと。
……夜中、寝ている時に、
彼はハッと目を覚ました。
……そして、いまは自分の実家の場所に
いるのだったと思い出しては、
はぁ―――っと低く小さなため息をついた。
(まだ……、あのときの、
最終選考のことを、夢に見るだなんて……。)
北海道の、真っ暗で、静かな夜の場所の環境が、
そうさせてしまうのだろうか。
…ならば、ここではなくて、
街の場所などに、住まいを移したほうが
いいのだろうか……。
――そう考えた結果、ナヲズミは、
『あんまり2人に世話になり続ける訳にも
いかないから』という理由で、ほどよいところで
実家をはなれることにした。
そうして、ナヲズミは都内の場所に
1人暮らしをしながら、
とある会社の社員として過ごし始めるようになった。
***
『え――、伯来さんって、北海道出身なんですね』
『この子もおんなじ北海道出身なんですよーっ、
たしか札幌に近いところだっけ?』
『よう、伯来。こんど、みんなで飲みに行くんだけども、
おまえも一緒にどうかな?
――まだおまえのこと、おれたちよく知らないし、
親睦を深める懇親会ってことでさ!』
――いえ…、自分は、遠慮しておきます。
大勢の人で、居酒屋に行ったりすることも、
あまり得意ではないので……。
その気持ちだけで、十分です。
では、お疲れ様でした、
また明日。
―――ちぇ~~っ、つれねぇなぁ。
仕事は出来ても、あんな堅物じゃあ、
冗談の1つも言い合いながら
酒を飲むとか出来なさそ~な感じだなあ。
…って、それはただ、
お酒が飲みたいだけでしょう?まったくもう……。
……でも、伯来さん、せっかく仕事も出来て、
……カッコいい雰囲気なのに、
あんなに近寄りがたい感じだと、ちょっと
もったいないよね…。
――おっ、なになに、狙ってた?
そっ、そういうわけじゃないけど――…っ!
でも……。それで……。それから………。
****
入社した会社での過ごし方は、
もっぱらこんな感じだった。
……きっと、会社の人々からは、
愛想がないとか、酒の席に一度も参加をしない
付き合いの悪い人間だと思われていることだったろう。
……でも、それでいいんだ。
もとより、あまりお酒の席を
大人数で賑やかに過ごすことは好みではない
性格ではあったのだし。
―――それに、うっかり何かの拍子に、
自分が宇宙飛行士のパイロットの訓練生であったと
気付かれることを自分から言ってしまったら、
たまったものではない。
……だから、会社の社員の仲間たちと
親しくなることは、あまり考えないようにした。
それでも、ここで過ごせているのならば、それでいい……。
誰も、自分のことを宇宙飛行士のパイロットの候補生だったと
知らなくても、なにも問題はない。
ここで、毎日の仕事さえできれば、
それでいいんだ。
――そうやって、今日も1日の仕事をおえて、
1人暮らしの部屋へと帰路についた。
****
―世の中の動きでも、少しずつ、月面着陸にむけての
本格的な情報を耳にするようになっては、
――ナヲズミは、ときおりハッとさせられるような気分に
なりながらも、……また気持ちを戻しては、淡々と、
自分の日常生活をこなしていった。
それから数年後、2029年がやって来る。
その年は―――、あの日 決定された、
10名の宇宙飛行士たちが
月へ到達するという、記念すべき年となった。
(つづく)
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