小学生を引っ張り出す -小説
4時ぐらいからのニュース番組を見る。同級生はまだ誰も家に帰ってないんだろうなと思いながら。
ちょうど12時20分に時計を見ると、いつも頭でチャイムが鳴る。小学生のとき、この時間のチャイムに合わせて給食の準備が始まった。
多分人は、人生で起こる出来事が少ないと、昔のことを濃く覚えていてすぐ思い出してしまう。
自分がまさしくそうだと思う。引き出しが少ないのは、大人になっても変わらないんだろうか…。
昔のことを考えてニュースの話を全然聞いていなかったけど、今から見ても多分分かるだろ。
昨日や今日の昼までにあった事件や事故のニュースかな。
重体とか遺体とかの言葉がよく耳に入る。
と、後ろからの言葉も耳に入った。
「あのキャスターの人親戚なんだよ」
「え そうなの?」
名前も見逃したし見た目も分からないし、本当に親戚か疑うけど、母親がそう言うならそうだろうな。
親戚だと聞くと、テレビの中だとしても同じ世界の人なんだという親近感が湧いて、キャスターの方ばっかり見てしまう。
そんなことを思われてるとも知らずに、向こうでは生放送が進む。
「昨日4時頃、「家が燃えている」と通報が
「この火事のあった辺りのところ、覚えてる?」
母親の声は後ろから右隣になった。
分かったのはそれぐらい。
「どういうこと?」
「3歳ぐらいの時まであの辺で住んでたんだよ」
「え うちが?」 「うん」
「そうなんだ…」
そうなんだ…。
昔のこと濃く覚えてるんじゃなかったのかよ…。
全然覚えてねえじゃん。
いくら経験が少なくても、思い出せているのは小学生までだったんだ…。
あ
思い出してしまった。
小学生のときのこと。
やっぱり僕の記憶の限界は小学生だった。
でも、こんな気持ちになってしまうなら
なにも覚えていたくなかった。
「あ…このキャスター…」
知ってるじゃん。
正月の集まりにいた。
なぜか真隣だった。
目や耳を見た。
「は」
初恋の人だ……。
口を両手で隠す。
口じゃ収まらなくて顔全体を押さえる。
クソ…。いつもみたいに、ニュースを無視すればよかった…。
「え?どうしたの」
「冷たいお茶が飲みたい」
「冷蔵庫にあるよ」
気持ちの数が多くてめちゃくちゃになってる。小学生のときの単純な気持ちを引っ張り戻したい。
顔変わったんだな…髪も真っ直ぐじゃなくなってるし…。
どれだけ飲んでも、口の中しか冷たくならないけど。
恥ずかしいけど、見方がめちゃくちゃ変わるけど。テレビを見る。
「ねえお母さん」
「このキャスターの人、来年の正月とかで会える?」
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