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幸せグラタンと魔法の言葉 〜カカさん編〜NO8


「いそいでる?」
「いえ、(いそいでます!!!)大丈夫です。何かありましたか?」
上司の東山さんが手に持っている図案が目に入り、すぐに帰れないことを察した。
「今度のイベント会場に置くミドリのことでさ、少し相談に乗ってくれないか?」
「もちろんです!実は…あの空間に置く植物、あ、ミドリ、何がいいかななんて
考えていたんです。」
机の引き出しにしまっていた、簡単なメモ書きを出して見せた。


「お!参考にさせてもらいたいから、話を聞かせてよ。」
「きょ、きょう、です、か。ですよね、です、はい。」
打ち合わせが早く終わったから、ココちゃんのお迎えに行けると思ったのに。

ぴえぇぇぇ〜んっっっ。帰れ〜〜〜んっっっ。

  —もしもし、トトさん、ちょっと帰り遅くなる。
   うん、仕事。仕事だってば。そう、うん。
   また帰る時にLINEするね。

えみりがニヤッと笑って「おっさきに失礼しまーす。」と耳元で囁いた。
ウソ、帰っちゃうの?やだーっ。
とっさに、えみりの腕を掴んで、
「東山さん、えみりも一緒にいいですか?別の意見も参考にできますし!!」と、
えみりを東山さんの前に突き出した。
「あ、えっと、うん。そうだね、お願いできるかな。」
えみりが振り返って「コラ!」って顔をしたけど、ちょっと嬉しそうでホッとした。
東山さんファンのえみりは、いつもの毒舌を少々抑えて、空間に置く椅子の話から
美味しい洋食屋さんの話をし始めた。
そんなえみりが可愛くもあり、頼れる存在でもあるんだよな…と、心の中で呟き、
そっとメモ書きを机にしまった。


「やっぱ、かっこいいよね〜〜東山さん!」
ご機嫌のえみり。
「そーだねぇ。私は植物のことを“ミドリ“って言うのが、いちいち気になるけど。」
駅のホームで東山さんへの熱い思いを聞き、まだまだ話したりなさそうな
えみりだったけど、電車がきたからとハイタッチをして別れた。


電車に乗って、トトさんにラインをする。
結局いつもの時間より少し遅くなってしまった。


駅から急いで帰る途中で「かかさ〜ん カーカーさぁ〜ん」と、
後ろから大きな声で呼ぶ声が聞こえ、振り返るとニコちゃんママだった。
「やっぱ、カカさんだった!違うかなーと思ったけど、そうかなーと思って!」
大声で呼んで、人違いだった時には恥ずかしすぎるよね。と、ケタケタ笑い合った。
自転車の前からニコちゃんが、食べかけのお煎餅を見せてくれた。
美味しそうな醤油味のお煎餅だった。
「さっき保育園にお迎えに行ったら、トトさんに会ったよ。
なんか、栗布団がどうのこうのって先生に言われてたわ。」
「クリフトン?」
「うん、栗布団。何?栗布団って」
「なにそれ〜〜…私が聞きたいわ!」
「なんか楽しげだったよ。あやみ先生、キャピキャピしてるように見えたしさ」
「おっ?トトさんモテ期かぁ??」

思いがけないところで、プチ情報を仕入れちゃった♪「クリフトン」なんだろ。


玄関を開けると、いい香りがしてきた。
これは…クンクン…グラタンだな♪

「ただいまー」
「おかえりー、ココちゃんな、トトさんとカキカキしてる」全部の色鉛筆を使って、
ヒョロヒョロの横線をいっぱい描いた折り紙を見せてくれた。
「おかえりー。今日はグラタンやで。幸せのグラタンや」
トトさんは「おかえり」のあとに、夕食のメニューを付け足して言うことが多い。
それがなんかおもしろくて笑ってしまう。

グラタンには私の好きなほうれん草が入っていて、
ほんと幸せになるグラタンだと思った。
マカロニを手づかみで食べるココちゃんの口の周りや、ベトベトのエプロンを見て、
「ココちゃんは美味しそうに食べるなぁ。ええ子やなぁ。」とニッコニコの
トトさんの寛大さがこのグラタンを“幸せグラタン“にしているのかもしれないな。

最後に食べようと残していた鶏肉にフォークを刺した時
「で、今日はなんで遅かったん?昨日の電話となんか関係あるん?」とトトさん。
「昨日の電話?なんだっけ?電話なんかしたっけ?」
「違うよ、電話、かかってきてたやん。ご飯食べてる時にさ、昨日のさ。」
あ、えみりの電話か。パン教室の話だ。
「あれは、えみり。今日は」と言いかけて、東山さんの話をするのが気まずく
感じて、すぐに「今日もえみり」と答えた。

ココちゃんが「えみりんくるん?」と、話に入ってくる。
「えみりんは来ないよ。パンの教室に行かない?って誘ってくれたんだよ。」と
ココちゃんに答える。
「パン教室?」ココちゃんより先にトトさんが答える。
「そう。」と返事をした。

ココちゃんの口の周りを拭きながら、付き合い始めた頃に
「いつか自分で設計してカフェがしたい」って言ってたから、
パンを習ってそのカフェで出せたら素敵かなと
思って、パン教室に通ってみたかったことを話したら、
「それって、すごくいいね!通ったらいいねん。」と、背中を押してくれた。
でも、やっぱり今は、早く帰ってきて、ココちゃんと遊びたい。
ちゃんと、『ママ』をしたい。
本当は、仕事も少し減らしたいぐらいなことも話をした。

ココちゃんを椅子から下ろしながら「いつでもやめるのは簡単やし、
やれる時はやっておきなよ。」と言って、
洗面所にココちゃんを連れて行ってしまった。
ベトベトは洗いきれなかったようで、
そのままお風呂に入ることにするとトトさん。
「ベタベタやわ、このままお風呂入ろ、カカさ〜ん、着替え持ってきて〜♪」
ココちゃんも「きがえもってちちぇ〜」だって。2人ともご機嫌。
まぁね。幸せグラタン食べたもんね。

テーブルを片付け、キッチンで洗い物をしながら、お風呂から聞こえてくる
2人の楽しそうな声が聞こえてきて
こういうのが幸せって言うんだろうな。なんて思ったりした。
トトさんのグラタン皿を洗いながら、
ふと、東山さんに呼び止められ遅くなると電話した時のトトさんの
「仕事なん?」の言葉と、さっきの「今日はなんで遅かったん?」の言葉が


引っかかった。
ザワザワし始めた。
あれって、疑ってたんかも。


「クリフトン」「いいね、クリフトーン」ココちゃん以上にはしゃぐ
トトさんの声がお風呂から聞こえる。

まぁいいか、疑われるのは嫌だけど、内緒にしようとしたのも悪かったし。
そう言い聞かせて「クリフトン」と、声に出して言ってみたら、
なんか楽しくなる気がした。

「クリフトン」なんだかわかんないけど魔法の言葉なのかもしれないな。
何度か言ってみる。ほんとは「幸せの合言葉」ではないだろうけど、
今日のところは
幸せの合言葉ってことで。モヤモヤを胸の奥にぐぐっとしまい込んだ。ま、いっか。


「クリフトン」「栗布団」どっちが正解?そもそもなんのこと?
気になる方はトトさん編で!

毎週水曜日更新しています。
やんちゃなココちゃん2歳と、トトさんとカカさんこと私。
来週はどんなことが起きるかな。

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