『道に戻す』現場を見る
「なんで、おまえが、ここにいるんだよ!」
この言葉を数人に言われた。ほぼ怒鳴られた。
私は高2と高3の夏、そういう現場にいた。それは
美容学校の通信科のスクーリングの現場だった。
私は当時高校に在学している状態で、母に無理矢理美容学校の通信科の学生にさせられてしまったのだ。というのも、母にとっては
美容は楽して稼げる。というカテゴリに入ってしまったようで、自分の子どもに美容の道を進めよう。という考えになったようだった。なぜ母がそんなふうに思うようになってしまったのか?というと、母は私が幼い頃にはカフェのマダムでしたが、カフェは私が小5の頃に完全閉店し、そのあとすぐに美容師に転職。カフェが暇な時に通信で美容学校を出て、すぐにインターン修行をし、そのまま個人店の美容室経営をはじめた。当初はバブル期だった背景もあり、簡単に黒字経営になった。それで、最初に第一子にその通信で美容学校へ行く話は向けられた。が、奴は偏差値バリ高だったので、どこか学歴の低い母をばかにしているような感じもあり、普通に「そんなことはやらない」で済む。のだが、
「◯◯(第一子)は逃げたけど、おまえは逃げられないからな。おまえは高校に行きながら通信科の美容学校に行くんだよ。
美容はカネになる。
美容学校を卒業しておけば後々役に立つ。
だから、おまえは勉強もできないし、将来の役に立つから、美容学校に行くんだ。
高2高3の夏はないから」
。。。つまんねえ人生なんす。上が逃げたから、もうどうしようもなくて。イヤイヤですよ。
あーあ、みんなが人生で一度しかやって来ない高2の夏と高3の夏、バイトしたり、旅行したり、彼氏がどうのこうのだったり、茶髪にしたり、ピアス開けたり。。。周りは
青春してた!んだろな!
スクーリング、夏休みの月曜日から金曜日まで
土日以外の全日制で
まったく夏休みなんてねえ!まじつまんねえ!
。。。まぁ、そうだったんですよ。普通に高校に通っているという安全圏に私は在籍していて、美容学校の通信科のだいたい8割くらいの学生は
ヤンキー。。。わかりやすく、ヤンキー。。。
ただ、わかりやすくヤンキーではあるのだけど、まだ美容学校へ通信科でも行こうというのは、
手に職をつける気がある子たちなんです。
ドキューンとは違うわけです。
でもというか、だからというか、冒頭の言葉でゴリゴリにやられるわけです。まぁ当然で。私は高校に在籍しているという保証がある感じの位置にいたので。ただ、「好きで来ているわけじゃない」ということは言っていた。ほんとうに仕方なくスクーリングを受けていた。仕方なくスクーリングを受けている。という点では同じような?という気持ちはあった。
不思議でした。私が通学していた周りは相当な都市部にあたり、
ヤンキーいなかったんです。
ヤンキーそのものが存在しない都市部で。
代わりにいたのが
チーマーだよ。
だから、へんな感じだったんです。美容学校の通信科の学生はその8割くらいの人は
アイパー?パンチパーマ?そういう人とか
不良少女と呼ばれて。みたいな髪の毛長いんだけど、細いロットで巻いているような強いパーマの女の子がミニスカートかロングスカートを履いてる感じの子がほとんどで
あと、私と同じように、高校へ行きながら通信科取らされているような学生と
単位落としたから、スクーリングで単位を取得しに来ている如何にも美容師的な方(ここに普通に高校を卒業した後、通信科に来ている人も入る感じでした)
まぁ、ほとんどがヤンキーで、高校辞めちゃいました!というクラスでした!通信科というクラスは!
私はほんとうにこのクラスの中ではマイノリティでした。髪も黒いし、ショートカットだったし、パンツスタイルで通っていたし。まったくオシャレではありませんでした。
教官がふたりいた記憶で。
ひとりは美容学部教官と
もうひとりは美容実習教官がいたんですけど
舐められたらいけない。とか、あったんだと思います。
美容学部教官は女性で髪を赤く染めていて。。。
美容実習教官はリーゼントでした。。。
妙に美容実習教官(リーゼント)のことは覚えていて。外見そんなふうにしていましたが、すごく丁寧な男性教官で。無駄に喋らず、ただ淡々と「これ、いいですね」とか「こうするとフィンガーウェーブ(現在はローションウェーブという名称かもしれないです)つくりやすいです」と、外見と真逆で。。。ただ、ずっと表情を顔に出すということがなかったです。
夏休みももう終わる頃、ヤンキーみたいな同期は『こいつちゃんと通学して根性あるじゃん』みたいな空気になってくるんです。そうすると
「マイルドセブン、吸う?」
どう見ても、成人してないやつがタバコを誘うんですよ。
「あー、シンナーないから、鎮痛剤飲むしかねぇな!」
。。。現在のトー横みたいな話を先読みしたような人を見てた。。。
そんな中で、淡々と教官たちは人を道に戻すことをやっていたんです。ここで、自分がきちんと教えないと、また
自分の道を歩けなくなってしまうかもしれない。だから、この美容という道でなんとか生きていかせなければならない。
それは、小学校や中学校、高校の先生とは別物で。わからないものは知らん。わからないやつが悪い。わからないやつはばかなんだ。という、どこか自分は『先生とはえらいものなんだ』という先生や学歴至上社会という『自分ありきで、おまえが頭が悪いのが問題なんだ』という突き放した感覚とは
まったく別物で。
「このやり方だと、試験官がどう判断するかというのがあるので、今のうちにこのやり方はやめて、こっちのやり方で」
「ウィッグにシャンプーやコンディショナーが残っていると、泡立ってクリーム状になるので、しっかり洗い流すようにしましょう」
「フィンガーウェーブは6段で納める感じで」
道を諦めたり、道からはずれたりしてしまった人たちに、新しい道というよりも
あなたの道は美容師という道で、もう一度自分の道を歩いてみましょう。美容師も大変な道です。この道も違うかもしれませんが、とりあえずこの道で
世の中に戻りましょう。
そういう姿勢を私はスクーリングで見た。という感じでした。それはまるで、勢いよく飛び出した金魚を慣れた人が「また飛び出してる」と生け簀に戻すような、保育園の教室から飛び出して外に出た園児を部屋に戻すような
一歩間違うと、生き死にを分けるような
そんな感じの善行を見たような感じでした。もちろん学費は支払っていますが、同じ学費を支払っていても
小学校や中学校の先生(税金)と、高校の先生と、責任がまったく別物で。わからなければ、わかるまで教えるし、
私はスクーリングの教官が怒った現場を見たことがなかったです。
スクーリング2年目の終わりに美容実習教官がふと
「今年の全日制の子たちはウェディングを実習に入れて。女の子は金髪にしてモデルになってもらったけど、頭皮が痛かったかもしれないけど
男の子と女の子でブライダル衣装を着て
良い思い出になったと思うんだ」と
はじめて少しだけ微笑む姿を見た。
全日制と通信では、担う重さが別物なのでしょう。私は偏差値云々よりも、人に職を与えようとする人を尊敬する。
最後に『なぜ現代という21世紀に19世紀初頭のローションウェーブをするか』について、私なりの答えは
あなたには簡単にできることかもしれませんが、美容の間口を広くする必要があります。誰かにとっては簡単じゃないんです。国家試験なので、毎年人数制限がある。という事実もありますが、ここが崩れてしまうと
ほんとうに自分の道から降りてしまう人が現実としていることを
忘れないでください。
。。。と、通信科だけ単位取って、美容学校だけ卒業して、国家試験逃げた。私が言うのだから
間違いないよ。
うっかり、まったくやる気がない私が国家試験受かって、この道しかない。と決めた人が落ちる。では、いろいろまずいんだよ。
毎年夏が訪れるたびに思い出す。
私の険しい夏の思い出。
おしまい!