落下点



 ぬるい夕陽に揺り起こされると
 緩慢な静止のさなかにある
 首すじにはりついた髪の束が
 地上への墜落をちからなくさそう一時
 わたしはうっとりとひとりきりでいられる
 浴室から流れる乳白色の滴に耳をよせると
 とうに絶えた余白をおもいだしてこわばる
 口元がある語句をひそかにかたどり
 窓の向こうから応えた唄声が
 遅すぎる訴えをしりぞける迷いなさで
 落下点をみちびいていく


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