失語


 よく通過すればわたしは透明な筒であり
 からだの底から言葉がすくえない
 それはたしかに幸福なことで
 陽に満ちた小路に立ち尽くし
 こもれびをあおむいて涙を流すひと
 そのありようをいまとなっては信じるほかにない
 葉影がいっせいに飛び込んでくると
 帰るべきところも失せていくので
 土のやわらかさに身をよせて
 じっと目をみひらいている

 行き交うものの色彩
 めまぐるしい変化のあわれな豊かさ
 わたしをおとずれるしずかな一滴
 その予兆

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