山梨、色節
長らく帰っていなかった故郷に帰る。友達の結婚式のために。
そうでなければ帰るものか、あんな田舎になんて。
電車もバスも本数が少ないし、楽しく遊べる所もそんなにない。楽しかった思い出は友達と県外に遊びに行ったこと、部活動に打ち込んだこと……別にここでなくても、得られた体験ばかりだ。
電車に揺られながら、ぼんやりと風景を眺める。
車窓から、富士山が見えた。刹那、
かえってきた。
不意に、その言葉が浮かんだ。夏は暑く、冬は寒い。不便なことも物足りないことも沢山ある。他の県が羨ましくて家を出て、後悔なんてこれっぽっちもしていない。それでも私の故郷は「ここ」なんだ。あの日の本一の山を見て、ぎゅっと締め付けられた胸が教えてくれた。
明後日、友達はあの山の麓で真白の祝福を受ける。
願わくば、あの子の幸せが続きますように。
そして、私達にとって、何だかんだこの地が故郷なんだと笑いあえますように。