[読書]家族不適応殺 新幹線無差別殺傷犯、小島一朗の実像
凄惨な事件が起きたとき、ワイドショーでは何が犯人をそうさせたのかと犯人に異常性を探そうとし、自分達はそうでないと安心したがる。
気持ちはわからなくもないが、本当はその逆をしなければならない。
悲惨な事件が起きたとき、犯人を異常者として片付けてしまうのではなく、いつか自分も犯人の立場になるかも知れないと危機感を持つことが再発防止につながるのだと思う。
本書を読み終えて改めてそれを思う。
無期懲役を望むために人を殺すと言う犯行動機はそれだけを聞くと理解できないが、犯人の生い立ちから現在までを追いかけていくと結論に納得はいかないがある程度の理解はできる。
本書で触れられている裁判の記録や家族の証言を辿っていくと、ありふれた歪な家族の有り様が見えてくる。
犯人の小島一郎は、精神鑑定で「猜疑性(妄想性)パーソナリティ障害」とADHDの診断を下される。
「猜疑性(妄想性)パーソナリティ障害」は他者に対する根拠のない不信感をもつと言う症状があり、それ故に他者が放った何気ない一言も悪意のある方に捻じ曲げて解釈してしまう。
そう言う意味でも小島一郎の語る家族や周囲の人間についての話は鵜呑みにすることはできない。
でも家族の証言などをつなぎ合わせていくと、小島が物心ついた頃からどこへ行っても邪険な扱いを受け、居場所がなかった。父方の祖母からひどい扱いを受けていた。母方の祖母の家に住むことになると、叔父から暴力を振るわれるなどの虐待をうけ家を出ていくように言われたと言う話はある程度の真実味があると思われる。
小島が犯行に及ぶまでに、ホームレスか精神科に入院するか刑務所に入りたいと常に言っていたという事実と、本書の最後に語られる小島の母親のボランティアについての内容。
彼は本当に愛情に飢えていたんだと思う。それを間違った形で実現しようとして実行したことには同情はできないけど。
2017年に日本で精神障害者とされているのは389万1千人。
人口の10人に1人はパーソナリティ障害を持つという学者もいる。
令和2年度の児童虐待相談対応件数は20万5029件。
この中に小島と同じような家庭環境にいる児童は何人いるだろうか。
細かく切り分けて考えていくと小島と同じ環境に身を置くかも知れないと言うのは珍しいことではない気がする。
あとはきっかけ一つで小島と同じ運命を辿るのか、真っ当な人生を手にするのか別れるだけだ。
本当に恐ろしい話だ。恐ろしい話だけれど、身近なことだと考えておくことで2度と同じ犯行を起こす人間を生まないように予防策を張ることはできるのではないかと思う。
小島の場合も、本人の持つ障害から周囲の対応は難しかったのは事実だろうが誰か1人でも彼の立場で物を考えて手を差し伸べられていたらと思わずにはいられない。刑務所に”家庭”を求めるなんて悲しい話だし、そのために犠牲になった人がいたたまれない。
これ以上の詳細は書かないのでぜひこの本を読んで色々考えてみてほしい。